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全てに終わりを告げるもの

 あらゆる願いを叶えると言われるヒホウを悪意ある存在から守るため、ヒリュウ族は無数の世界より力あるものを迎えてこれを討滅させるべく行動していた。
 その内の1人、カナメもまた任務に従事することでこの目的を果たし、世界を維持することを望んでいたのである。
 しかし、ほんの僅かに生じたなんらかの要因によって、世界そのものに異変が生じ始めていることに彼女は気が付いた。
 これに対処するべく調査を続けていたカナメは、その特異点に触れたことで異変の本質を目の当たりにすることになる。
 それは本来交わることの無い世界と世界の狭間、力あるものに与えた界渡りの紋章の影響によって生み出された通路の端から侵食してくる、何者かの干渉であった。
 それも自らが導いた力、勇者機兵隊の仲間たちによって作られた道の方々より現れたそれらは、彼らが界を進むごとにその影響を強め、顕在化していっているように見受けられる。
 まるでこの異変が、自分が導いたことに起因して引き起こされているかのように。

「どうして……私は、確かにあの人たちだけを導いた筈なのに……!」

 カナメの表情に浮かぶのは驚愕と困惑であり、その瞳には抑えきれない動揺によって溢れ出る涙が溜まっている有様である。
 目前に確実に実体化しつつある”何か”が明確な意志を持ち、その意志に従って世界へと干渉している状況を目の当たりにした彼女は、己の行いによって問題が生じているという事実に衝撃を受けていた。
 世界を守る行いを疑っていなかった自分が引き起こした災いを前にしては、動揺するなという方が無理な話ではある。
 しかしどれだけ嘆こうと、目前の現実は決して変わらない。

<我がそう書き換えたからだ。我の目的を果たす、その手段を得る為に>

 対する”何か”はおぼろげな輪郭で形成した手によって己を指し示し、ここに存在すると言う事実を誇示する為に言葉を紡ぐ。
 それは肉声と言うよりは思念波とでも言うべきものであり、言語を介した訴えというよりは己の意味するところを直接意識に語りかけてくるような、強制力を伴う交渉能力であると言えた。
 その輪郭がカナメより上位の存在であることは、その思惑を上回った行動を伴っていることからも明らかだろう。
 しかし、それにしては自発的に世界に干渉しないなど、回りくどい手段を用いているという事実に違和感がある。
 そして、そうせざるを得ない理由があると言うならば、それが何であるかを理解することはこの事態に至らせた己の身で果たすべき責任であると、カナメは理解した。
 故にその口から発せられたのは、疑問に対する回答を得るための問い掛けである。

「界渡りの、世界と世界の接続に干渉できるだけの力を持つ存在なんて、私たちヒリュウ族以外に居る筈がない……世界の法則を内側から書き換える力が存在するなんて……!」

<そう。故に我は”存在などしておらぬ”のだ>

「……っ!?」

 虚を突かれ、カナメの表情が驚愕に歪む。
 その脳裏に浮かぶのは、勇者機兵隊の参戦と同時期に出現した異形の存在だ。
 彼らは己の願いを叶える為にヒホウを求め、顕現していた。
 しかしただ敵対者を攻撃する意思しか見せない相手がどうしてそのような渇望に捉われるのか、カナメは疑問に思っていたのである。
 しかしその願いが確たる己の上に成り立つものではなく、何かが欠けた己を補う為の行為であったとしたら。
 ”何か”はカナメの得心を感じ取った様子で言葉を続けた。
 
 <我は存在し得ぬ者。遥か古の時代に存在そのものを奪われ、世界そのものより放逐された存在の残滓に過ぎぬ>

「世界の法則の外にある者、だからこそ界渡りの法則をも利用出来たと……!?」

<残滓でしかない我は、世界の内側に干渉することが出来ぬ。故に界を渡る綻びに縋り、その内への浸食する以外に手段を持たなかったまでのこと>

「その為にあの人たちを、勇者機兵隊の皆さんを利用してヒホウに至ろうとしたんですか……!」

 言葉の応酬が、そこで途切れる。
 しばしの間を置いて、言葉を選ぶようにかの者は告げた。
 
<欠片はそうだ。しかし我はヒホウには至れぬ>

「……え?」

 それは目前に在る存在に対する認識を、根本から覆す一言だ。
 叶えたい願いがあるからこそヒホウを目指し、それを得る為にこそ障害になり得る存在を排除することこそが、この戦いの本質の筈である。
 それを根本から覆しかねない独白に対して、カナメは返すべき言葉を見失った。

更新日:2018-02-11 19:51:09

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