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 夜。夢を見た。
 蜘蛛の巣が張った暗く細い螺旋階段。おとぎ話に出てくる、高い高い塔の中のよう。
 ひたすら階段を上った先にいるのは、おとぎ話なら美しい眠り姫、ってところかしら。そう考えながら、何かに導かれるように階段を上った。
 永遠に続くように思えたほどに長い階段を上りきり、行き当たった古い木戸を開くと、そこに例の女神様がいた。
 噂を知る人が見ればすぐそれとわかる、黒い蜘蛛のような胴体に、多眼の女性の上半身が生えている、そんな異形の女神。胴体に足が四本、上半身に腕四本。やたらと長い腕はせわしなく動き、古臭い糸車で糸を紡いでいる。
「ようこそいらっしゃいました。私の使いたちを可愛がってくだすったそうで」
 八つの目がぎょろりとこっちを向く。不気味だけれど、どこか優しい目。
「私じゃないわ」
「あら・・・私、目があまり良くないものですから、見間違えたのかしら」
 少しだけ手の動きが緩まり、すぐに戻った。
「まあ、すぐ側にいらした方ですし、いいとしましょう。それか、あなたが代わりに・・・私の使いを助けてくれていた方の恋を叶えてくださるのでもかまいませんよ」
 私としてはその方が正しいと思いますが、と女神様は少し首を傾けた。束ねられた白い長髪がゆらりと揺れる。
「じゃあ・・・」
 私は雛子のために、願ってあげた。

更新日:2018-02-05 18:21:05

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