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二、リボンタワーの娘

「こちらのフォームが分娩予約、もう一枚は産後院の仮予約フォームになります」

「ありがとうございます」

事務員が去ったところで、隣の母が嘆息する。

「今日、妊娠が分かったのに、随分色々と手続きさせられるのね」

チェリーブラウンに染めて巻いたばかりの髪の先がお気に入りのパープルピンクのニットワンピースの肩で微かに揺れる。

同世代の一般区の女性と比べると、「俗悪」「若作り」と揶揄される類の出で立ちかもしれない。

しかし、私は飽くまで自然に好きなものを身に着けて楽しんでいる母が好きだし、そうした母を目にするとほっとする。

「ここ、人気高くて予約が埋まりやすいからね」

女性自治区の産院は無痛分娩がデフォルトでこの産院のように産後のケアにも重点を置いている施設が多いので、私のように普段は一般区に住んでいても出産にはそちらを利用する女性も少なくない。

「私たちの頃も少子化で分娩予約は大変だったけど、無痛分娩やってる所なんて近場に無かったし、昔はアフターケアなんて聞いたことも無かった」

というより、一般区の産院は未だに無痛分娩を実施する施設は限られ、また、産後すぐに退院させるアフターケア不十分な施設が多いので人気が無い。

更新日:2018-02-03 17:08:13

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