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一、ローズツリーの息子

“診察はまだ順番待ち? 分かった”

ターミナル駅直結のデパートの窓から見える空はどんよりとした灰色だ。

予報では午後から雨になると言っていた。

“大丈夫だよ、適当に時間潰すから”

ラインではそう答えたものの、何となくくたびれて近くのベンチに腰を下ろす。

そうすると、窓の端っこにピンク色にライトアップされたリボンタワーが見えた。

あそこが今、彼女がいる女性自治区だ。

彼女の母もあの自治区のマンションで一人暮らししている。

反対側に目を移すと、そちらには紫に輝く巨大なローズツリーが立っていた。

あちらは男性自治区。

僕の故郷で、養父二人の家があるところだ。

このターミナル駅はちょうど二つの自治区の中間に位置している。

女性自治区でも男性自治区でもない、通称「一般区」のど真ん中。

周囲を歩くのは男女半々。

男女のカップルも少なくない。

男性は身なりにあまり構わず、ベンチにも脚を開いて座る、特に女性に対してはぞんざいな口調で話す人が多い。

一方、女性は肌の露出を抑えた服を着ている割に、顔はきっちり化粧して、特に男性に対してはちょっと甘えた高い声で話す人が目立つ。

それが「一般区」の人たちの平均した特徴だ。

彼らに伝えると、特に男性からは「全ての一般区民がそうではない」と執拗に食い下がられるけれど、「一般区」では男性があらゆる面で女性より優先され、横暴に振舞うことが黙認されている。

更新日:2018-02-03 17:01:39

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