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第三章
エルダの事が気がかりになって、フィフティは睡眠不足で朝を迎えた。
早朝から、帝国議会に出席するファシル総統の警護勤務がある。
前日に着用した隊服を清浄機に入れ、クローゼットにもう1着用意されている新品の隊服を着た。
プラスチックのボトルやガラス瓶に詰まった「調理用ミックス元素」を、何種類か計量スプーンで投入口から入れて「合成」表示に触れると、数秒で「合成が終了しました」とアナウンスが流れた。
合成器からサンドウィッチを出して切り分ける間に、飲料用合成器にコップをセットして同じように野菜風ジュースを作る。
何が違うのかわからないが、やっぱり、ハルカが合成した料理のほうが美味しかった・・・とフィフティは思うのだった。
指令室にてファシルから、帝国議会の警護をする心得として、「知り得た情報や事実に関して、守秘義務を貫徹する事」を誓約するように言われ、親衛隊は一人一人、ファシルと命をかけて誓いを立てた。
フィフティも、ファシル総統の正面に立ち、ヨエル達と同じように「命を懸けて守秘義務貫徹を誓います」と、視線を交わして敬礼する。
魂ごと吸い込まれそうな瑠璃色の瞳が、一瞬のうちに心の全てを見透かし、嘘や偽りの欠片もない「忠誠心」を確認しているような、そんな気がした。
帝国議会には、全てのドーム(シティ)市長が集まる。
ひとつのドームシティは、大昔の「国家」に当たるらしい。
ちなみに、クローン人種のドームシティは規模も小さく「国家」に相当しないので、ドーム(シティ)市長も存在せず、帝国から任命された「人種管理長」が監視しているのであった。
帝国総統やドーム(シティ)市長の選挙には、一般市民も選挙権を持っているが、結果的に、選出された総統や市長は、殆ど支配階級となっていて、市民に議会の全てが公開されるわけではない。
政府の中枢機関は、殆ど中央(センター)ドームに集結されており、市長と警察・軍隊を統括・指揮しているのがファシル総統である。
行政など、その他の帝国運営を統括している首相(現在はアルバス・アッカーマン議長が兼任)が存在するが、帝国の全ての権限は、「総統」に握られている。
フィフティは、議会で決定される問題も何もかも想像こそできないが、概要だけは、サティからの情報やネットから得た知識があった。
頭が禿げ上がって小太りした「アルバス・アッカーマン議長」の宣誓から始まった議会で、議論の中心は、枯渇し始めた資源確保をこれから、どうやって増加させて行くのか・・・という憂うべき議題であった。
「科学省からの警告で、このままの状況では、約50年後には全て破綻するだろう、という予測です」
と言うアメリカンシティ市長の発言が、フィフティの心を動揺させた。
地下帝国内の生産だけでは不足する程、人口が増加した事、地下資源が、過度な採取により激減してきている事、様々な意見が出される。
そして、即座にクローン人種製造を停止させて、人口削減を推進しようと提案する者が多い事実に、フィフティは恐怖を感じずにはいられなかった。
しかし、(まあ、クローン人種は、遺伝子操作で寿命を「50歳」に設定されているから、自分が「帝国の最後」を見届ける事は出来ないとは思うが・・・)と、心の中で自己解決した。
「地球の地軸がズレてから3000年、同じく人類が地下帝国に住み始めてから2000年、地球環境が激変したからって、こいつら、なぜ地上資源を何も利用しようとしないんだ?利用できるモノだって、一つぐらいあってもいいハズだろ?」
「サ・・・ティ?」
耳元で、サティが囁いた。
「マズイってか?大丈夫、誰にも気付かれてないし、声も聞こえてないって知ってるだろ」
「でも、総統の警護中だから・・・」
フィフティは、心の声で呟いた。
「総統なんかに、人の心が読めるとは思わねぇけどさ」
サティの言う通り、(読めるぐらいなら、エンジェルの気持ち、わかってやってるよなぁ)と、フィフティは妙に深く納得したのだった。
「そんなコトより、ここにいる奴らも知らない秘密を掴んじまったぜ」
「市長達も知らない秘密?」
「ああ…総統や議長とか、ほんのひと握りの「支配者」だけが共有している『究極のトップシークレット』さ」
サティは、フィフティが反応を示す余裕すら与えず、言い放った。
「帝国に住む人類全員が、『支配者達』に騙されてるんだぜ」
と……。
エルダの事が気がかりになって、フィフティは睡眠不足で朝を迎えた。
早朝から、帝国議会に出席するファシル総統の警護勤務がある。
前日に着用した隊服を清浄機に入れ、クローゼットにもう1着用意されている新品の隊服を着た。
プラスチックのボトルやガラス瓶に詰まった「調理用ミックス元素」を、何種類か計量スプーンで投入口から入れて「合成」表示に触れると、数秒で「合成が終了しました」とアナウンスが流れた。
合成器からサンドウィッチを出して切り分ける間に、飲料用合成器にコップをセットして同じように野菜風ジュースを作る。
何が違うのかわからないが、やっぱり、ハルカが合成した料理のほうが美味しかった・・・とフィフティは思うのだった。
指令室にてファシルから、帝国議会の警護をする心得として、「知り得た情報や事実に関して、守秘義務を貫徹する事」を誓約するように言われ、親衛隊は一人一人、ファシルと命をかけて誓いを立てた。
フィフティも、ファシル総統の正面に立ち、ヨエル達と同じように「命を懸けて守秘義務貫徹を誓います」と、視線を交わして敬礼する。
魂ごと吸い込まれそうな瑠璃色の瞳が、一瞬のうちに心の全てを見透かし、嘘や偽りの欠片もない「忠誠心」を確認しているような、そんな気がした。
帝国議会には、全てのドーム(シティ)市長が集まる。
ひとつのドームシティは、大昔の「国家」に当たるらしい。
ちなみに、クローン人種のドームシティは規模も小さく「国家」に相当しないので、ドーム(シティ)市長も存在せず、帝国から任命された「人種管理長」が監視しているのであった。
帝国総統やドーム(シティ)市長の選挙には、一般市民も選挙権を持っているが、結果的に、選出された総統や市長は、殆ど支配階級となっていて、市民に議会の全てが公開されるわけではない。
政府の中枢機関は、殆ど中央(センター)ドームに集結されており、市長と警察・軍隊を統括・指揮しているのがファシル総統である。
行政など、その他の帝国運営を統括している首相(現在はアルバス・アッカーマン議長が兼任)が存在するが、帝国の全ての権限は、「総統」に握られている。
フィフティは、議会で決定される問題も何もかも想像こそできないが、概要だけは、サティからの情報やネットから得た知識があった。
頭が禿げ上がって小太りした「アルバス・アッカーマン議長」の宣誓から始まった議会で、議論の中心は、枯渇し始めた資源確保をこれから、どうやって増加させて行くのか・・・という憂うべき議題であった。
「科学省からの警告で、このままの状況では、約50年後には全て破綻するだろう、という予測です」
と言うアメリカンシティ市長の発言が、フィフティの心を動揺させた。
地下帝国内の生産だけでは不足する程、人口が増加した事、地下資源が、過度な採取により激減してきている事、様々な意見が出される。
そして、即座にクローン人種製造を停止させて、人口削減を推進しようと提案する者が多い事実に、フィフティは恐怖を感じずにはいられなかった。
しかし、(まあ、クローン人種は、遺伝子操作で寿命を「50歳」に設定されているから、自分が「帝国の最後」を見届ける事は出来ないとは思うが・・・)と、心の中で自己解決した。
「地球の地軸がズレてから3000年、同じく人類が地下帝国に住み始めてから2000年、地球環境が激変したからって、こいつら、なぜ地上資源を何も利用しようとしないんだ?利用できるモノだって、一つぐらいあってもいいハズだろ?」
「サ・・・ティ?」
耳元で、サティが囁いた。
「マズイってか?大丈夫、誰にも気付かれてないし、声も聞こえてないって知ってるだろ」
「でも、総統の警護中だから・・・」
フィフティは、心の声で呟いた。
「総統なんかに、人の心が読めるとは思わねぇけどさ」
サティの言う通り、(読めるぐらいなら、エンジェルの気持ち、わかってやってるよなぁ)と、フィフティは妙に深く納得したのだった。
「そんなコトより、ここにいる奴らも知らない秘密を掴んじまったぜ」
「市長達も知らない秘密?」
「ああ…総統や議長とか、ほんのひと握りの「支配者」だけが共有している『究極のトップシークレット』さ」
サティは、フィフティが反応を示す余裕すら与えず、言い放った。
「帝国に住む人類全員が、『支配者達』に騙されてるんだぜ」
と……。
更新日:2018-10-23 18:36:23