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千可ちゃんと森口くんと戸村くん

 ここはどこなのでしょうか? ある意味真っ白い、ある意味灰色な、ある意味ドス黒い空間です。その中に1人、女の子がいます。女の子は座ってます。ただ、何に座ってるのかわかりません。見えない何かに座ってます。女の子は泣いてました。
「なんで泣いてるの?」
 女の子がはっとして顔を上げると、そこには千可ちゃんがいました。
「あ、あなたはたしか、4組の羽月さん」
「はい、羽月です。よくわかりましたねぇ。私はあまり目立たない存在なんですけど・・・」
 千可ちゃんは女の子に相対して座りました。ここにも見えないイスがあったようです。
「あなたが泣いてたから、気になって来ました。高校に行ってないみたいだけど、どうして?」
「怖いから・・・」
 千可ちゃんはちょっと考え、そして再び質問しました。
「戸村くんがいるから?」
 女の子は何も反応しません。
「私もあいつに殴られたんだ」
「え?」
 千可ちゃんは左手で自分の左ほほに触れました。
「ここを殴られたんだ。むちゃくちゃ腫れたよ。おまけに、私の顔を踏み潰そうとした。頭に来たから、呪い殺してやったよ」
 女の子はちょっと驚いてます。
「呪い殺したの?」
「うん。でも、謝ってくれたから、生き還らせた」
「ええ・・・」
 女の子はちょっと残念そうです。千可ちゃんは言葉を続けました。
「戸村くんはね、森口くんも傷つけたんだ。肋骨を折ったんだよ。けど、私が戸村くんに謝ってと頼んだら、ちゃんと森口くんの前で謝ってくれた。戸村くんてほんとうはいい人なんだよ。悪い霊が憑りついてただけなんだよ」
 それに対する女の子の反応は無言でした。千可ちゃんはさらに言葉を続けました。
「ここに戸村くんを呼んで、謝ってもらおっか?」
 女の子は顔色を変え、感情的に即答しました。
「いやっ!」
 千可ちゃんは困ってしまったようです。
「ん~ そっか・・・」
 千可ちゃんは立ち上がりました。
「今度は教室で逢おっか」
 千可ちゃんは歩き出しました。それを見て、女の子は慌てました。
「ちょ、ちょっと待って!」
 と、千可ちゃんの姿は霧に消えるようにふっと消えました。女の子はとても残念そうです。

更新日:2017-12-27 08:00:29

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