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はじめてのおつかい

 ギルドはいかにもな木と石との中世風な造りだった。ギルドは意外と狭かった。受付のカウンターと、その周りにはクエスト案内の張り紙が貼られた看板があり、4つほど丸テーブルとそれぞれに4脚ずついすが置いてあるだけだ。

 造りはいかにもだったが、よくある酒場と一緒になっているところではないようだった。まあすぐ隣に酒場は別にあるから全然違うという程でもない。


「あらぁ、すぐ来たのね。ちょどあなたたちにあったことを話してたところなのよ」


 カウンターの前には筋骨隆々のマッチョイケメンがいた。というかさっきあったばかりだがマチューだ。


「よっ、キミが噂のよそ者クンか。なんかさえない顔だね」


 カウンターの向こうからいきなりだめだしされた。


「えーと、ども。さえない顔のタナカです」
「ははっ、冗談だよ。あたしはここのマスターやってるアデルだ。マスターとかアデル姉さんとか好きに呼んでくれ」
「よろしくお願いしますアデルさん」
「ああ、こちらこそよろしくタナカ」


 そういってアデルは笑った。それはそれはさわやかな笑顔だった。


「ところで妹よ、今日はどういった用かな?」


 アデルの目線の先にはアポロニアがいた。
 そういえばギルドに入ってからニアは静かだった。というかギルドに来る道中もいつもよりは元気がなかったように思う。
 そうか、姉に会いに来るのは何か事情があって少し嫌なのかな。喧嘩してるとかさ。


「って、いもうとぉ!?」


 思わず素っ頓狂に叫んでしまった。アデルは笑っているがマチューはくねくねしている。はっきり気持ち悪い。どういう感情だそれは。


「そうさ、アポロニアは我が愚妹だ。なんだ聞いていなかったのか。びっくりしたぞ急に叫ぶから」
「え、いやほんとに姉妹なんですか?結構年が離れているようだし、ニアは獣耳生えてるし尻尾あるし」


「おいおい失礼だなー、あたしはそんなまだ二十歳だぞ。そんなにとっているように見えた?」
「いやアデルさんはそれくらいだと思っていました。でもニアは十歳くらいじゃないんですか?」


 そうきくとアデルとマチューは二人とも一瞬固まり、大笑いし始めた。
 これまでずっと俯いてしゃべっていなかったニアでさえ、驚きの顔で俺の顔を見てきた。
 しまった、これはやらかしたと思ったが時すでに遅し、笑いながらマチューが説明してくれた。


「ちょっと、アポロニアは確かに幼く見えるけれど今年で十六歳よ」
「まさかの年上!?」


 驚きもう一度叫ぶと、盛大な笑い声が鳴り響いた。ついでにニアに蹴られた。


「さて、では話を戻そう妹よ、何しに来た?」


 一通り落ち着いたところでアデルが聞く。
 ニアにはあってアデルにはない獣耳や尻尾は説明してもらえなかったが、何かわけがあるのだろうか。


「タナカの紹介にきたのー。はじめてのおつかいにいくのー」


 若干頬を膨らましながら答える。どうみても年上には見えないな。


「はじめてのおつかい?」
「そ、はじめてのおつかい。なんだ、そんなことも聞かずにキミはやってきたのか」
「すみません、何も聞いてなかったです」
「ようするに、クエストを受けるのに最低限の能力があるかのテストだな。これをやらないとうちではクエストを受けさせることはできないな」


 なるほど、入会試験みたいなものか。最初に何かしら試して、その者の実力を見極めるみたいな。


「わかりました。で、具体的には何をすればいいんですか?」
「そうだな、ふつうは採集を頼むところだが、最近近くの洞窟がダンジョン化しているようなので様子を見てきてほしいんだ。ダンジョン化が深刻化する前なら楽勝だ。テキトーにボスを見つけて倒してきてほしい」


「ダンジョン化?」
「そうダンジョン化だ。特定地域にモンスターが集まり増殖するようになることだな」


 この世界にはマナといわれる粒子のようなものが存在し、それは風や動植物の代謝など環境要因によって移動するらしい。そしてマナの吹き溜まりには、マナを栄養源とするモンスターが集まりやすくなり、増殖に至るらしい。


「俺戦えないんですけど大丈夫ですかね?」
「問題ない。マチューと愚妹にも行ってもらうからな。はじめてのおつかいは本来一人でやるものだが、さすがに今回はパーティで挑んでもらうよ」


「んふ、よろしくね」
「……」


 そういわれて相変わらずくねくねするマチューと、相変わらず黙ったままのニア。
 大丈夫かな、このパーティ。


「いってらっしゃい、問題の場所はこの地図に書かれているから。健闘を」



 こうして俺の異世界で初めてのお使いが始まった。

更新日:2018-01-11 03:32:24

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異世界に行かせてもらえるというからやる気だしたのに