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出会いたくなかった出会い
山の斜面は急すぎるということもなく、派手な獣が出て難儀するという程のものでもなかった。
ありていに言って楽勝だった。
正確には山の裾をぐるっと回っているので、傾斜角度など関係ないのだけれども。
何の能力も持ち合わせていない俺と、常日頃狩りをして生計を立て、現世での常識では想像の範疇でしかない身体能力を備えたケモ耳っ子との道程だ。俺はともかく彼女がいて難航することは今のところ考えられない。
「なあ、もっと近道あったんじゃないのか?」
基本的にこの山にいるのは普通の獣だそうだ。特殊変異体のように、手に付けられないほどのものはいない。人里に近いためそれなりの頻度で駆逐されているらしい。
徒歩で二日が近い距離か……。
常識というのは十八歳までに身に着けた、偏見の塊だとうたったのはどこの哲学者だったろうか。この場合、俺はまだ十五なのでその言には完全には当てはまらないが、常識とは実に簡単に崩れるものだ。
「うーん、あたしあんまり道憶えられないからなー。迷って時間つぶしちゃうよりはいいかなーって」
なるほど。一応考えてのことだったらしい。めっちゃ浅い考えだけど。
しかし、迷子属性か。ケモ耳っ子で迷子属性の少女って、どこの需要を根られっているのかはなはだ疑問だが、とりあえず愛くるしいことは間違いない。
「おにーさん、街だよー」
「お、おおお」
常に曲線の道程のため、山に視界の何割かを常に遮られていたが、突然山の向こうから街が見えてきた。
街というにはあまりにも粗末だったが、これがこの世界での文明レベルなのかもしれない。
あのくそじじいのことだから、俺が夢見ていた中世の面影のある異世界ファンタジーなんて成立しないだろうと思っていたが、意外にも建物は中世風の造りだった。ただしだいぶ大昔の中世風だがな。現世ならば4世紀程度といったところだろうか。
街の入り口は大きな門になっており、街を一蹴するように3メートルほどの策が張り巡らされていた。
「すごいな、ほんとに街だ」
「あたりまえじゃないかー。さすがに街ぐらいあるよ」
「あらー、アポロニアじゃない。ひさしぶりね」
門をくぐるとすぐに、野太い声で話しかけられた。
どうやらニアの知り合いのようだ。
「久しぶりだね、マチュー。相変わらずすごい身体だねー」
「ありがと。そういわれるとうれしいわ」
マチューと呼ばれたのは、服の上からでもわかる筋骨隆々の大男だった。
ニアと会話しながらくねくねしてる。目に毒だ、筋肉がてかってる。
体はびっくりするほど男で、何なら漢という男だったが、顔面だけは違った。びっくりするほど中性的なイケメンなのだ。
どこでどう間違ったらこんな体であんな言動挙動になるのだろうか。
「ところでアポロニア、あちらの人は?さっきから私に熱視線を送ってくるのだけど」
勘弁してくれよ。
「あいつはタナカだ。行き倒れてたー」
間違ってはないけれどなんとも不名誉な紹介だった。ひとつ言わせてもらえるのなら、熱視線を送っているのはマチューだ。
「はじめましてタナカ。私はマチューよ。みんなに頼られるお兄さんね」
「どうも、エドワードです。よろしくおねがいします」
エドワードと名乗ると、マチューは俺とにまにまするニアと、エドワード、エドワードとにらむ俺とを交互に見ると、何かに納得して一人うなずく。
「それで、タナカ。この街へはなにをしに?」
「とくには。そもそも街があることすら知りませんでしたから」
「ふうん?まあ困ったことがあったらこのお兄さんを頼りなさいな」
「お姉さんではなくて?」
「あらやだ、このこもって帰りたいわ」
適当に会話してさっさと別れたい俺と、なんかロックオンしてくる自称お兄さん、横で知人同士の会話を楽しんでいる少女。まったく日本の警察がいれば職質間違いなしだ。
「ま、私はたいていギルドにいるから何かあったら頼りなさいよ」
そう言い残してマチューは街の奥の方へと消えていった。
手を振りながらさっそうと去っていったが、効果音的にはズドンズドンという感じだった。
「はあー。圧迫感すげーわ」
「でしょー」
なぜか喜ぶニア。しっぽがちょっと揺れている。
「ところで、ギルドって何なの?」
「ギルドはねー」
要約すると、街の人たちが手伝ってほしいこととか、自警団で手に余る仕事のあっせんなどしてくれるところらしい。
まあ普通にRPGものとかのギルドと一緒だ。
そこに行くとクエストが受けられるんですよー。
ニアの説明を聞きながら心の中でガッツポーズをした。
「異世界モノっぽいのキター!!!!」
その後俺は、ギルドへと足を運び盛大にがっかりすることとなる。
まあこの世界がそんな普通なところじゃないのはわかっていたけれどね。
ありていに言って楽勝だった。
正確には山の裾をぐるっと回っているので、傾斜角度など関係ないのだけれども。
何の能力も持ち合わせていない俺と、常日頃狩りをして生計を立て、現世での常識では想像の範疇でしかない身体能力を備えたケモ耳っ子との道程だ。俺はともかく彼女がいて難航することは今のところ考えられない。
「なあ、もっと近道あったんじゃないのか?」
基本的にこの山にいるのは普通の獣だそうだ。特殊変異体のように、手に付けられないほどのものはいない。人里に近いためそれなりの頻度で駆逐されているらしい。
徒歩で二日が近い距離か……。
常識というのは十八歳までに身に着けた、偏見の塊だとうたったのはどこの哲学者だったろうか。この場合、俺はまだ十五なのでその言には完全には当てはまらないが、常識とは実に簡単に崩れるものだ。
「うーん、あたしあんまり道憶えられないからなー。迷って時間つぶしちゃうよりはいいかなーって」
なるほど。一応考えてのことだったらしい。めっちゃ浅い考えだけど。
しかし、迷子属性か。ケモ耳っ子で迷子属性の少女って、どこの需要を根られっているのかはなはだ疑問だが、とりあえず愛くるしいことは間違いない。
「おにーさん、街だよー」
「お、おおお」
常に曲線の道程のため、山に視界の何割かを常に遮られていたが、突然山の向こうから街が見えてきた。
街というにはあまりにも粗末だったが、これがこの世界での文明レベルなのかもしれない。
あのくそじじいのことだから、俺が夢見ていた中世の面影のある異世界ファンタジーなんて成立しないだろうと思っていたが、意外にも建物は中世風の造りだった。ただしだいぶ大昔の中世風だがな。現世ならば4世紀程度といったところだろうか。
街の入り口は大きな門になっており、街を一蹴するように3メートルほどの策が張り巡らされていた。
「すごいな、ほんとに街だ」
「あたりまえじゃないかー。さすがに街ぐらいあるよ」
「あらー、アポロニアじゃない。ひさしぶりね」
門をくぐるとすぐに、野太い声で話しかけられた。
どうやらニアの知り合いのようだ。
「久しぶりだね、マチュー。相変わらずすごい身体だねー」
「ありがと。そういわれるとうれしいわ」
マチューと呼ばれたのは、服の上からでもわかる筋骨隆々の大男だった。
ニアと会話しながらくねくねしてる。目に毒だ、筋肉がてかってる。
体はびっくりするほど男で、何なら漢という男だったが、顔面だけは違った。びっくりするほど中性的なイケメンなのだ。
どこでどう間違ったらこんな体であんな言動挙動になるのだろうか。
「ところでアポロニア、あちらの人は?さっきから私に熱視線を送ってくるのだけど」
勘弁してくれよ。
「あいつはタナカだ。行き倒れてたー」
間違ってはないけれどなんとも不名誉な紹介だった。ひとつ言わせてもらえるのなら、熱視線を送っているのはマチューだ。
「はじめましてタナカ。私はマチューよ。みんなに頼られるお兄さんね」
「どうも、エドワードです。よろしくおねがいします」
エドワードと名乗ると、マチューは俺とにまにまするニアと、エドワード、エドワードとにらむ俺とを交互に見ると、何かに納得して一人うなずく。
「それで、タナカ。この街へはなにをしに?」
「とくには。そもそも街があることすら知りませんでしたから」
「ふうん?まあ困ったことがあったらこのお兄さんを頼りなさいな」
「お姉さんではなくて?」
「あらやだ、このこもって帰りたいわ」
適当に会話してさっさと別れたい俺と、なんかロックオンしてくる自称お兄さん、横で知人同士の会話を楽しんでいる少女。まったく日本の警察がいれば職質間違いなしだ。
「ま、私はたいていギルドにいるから何かあったら頼りなさいよ」
そう言い残してマチューは街の奥の方へと消えていった。
手を振りながらさっそうと去っていったが、効果音的にはズドンズドンという感じだった。
「はあー。圧迫感すげーわ」
「でしょー」
なぜか喜ぶニア。しっぽがちょっと揺れている。
「ところで、ギルドって何なの?」
「ギルドはねー」
要約すると、街の人たちが手伝ってほしいこととか、自警団で手に余る仕事のあっせんなどしてくれるところらしい。
まあ普通にRPGものとかのギルドと一緒だ。
そこに行くとクエストが受けられるんですよー。
ニアの説明を聞きながら心の中でガッツポーズをした。
「異世界モノっぽいのキター!!!!」
その後俺は、ギルドへと足を運び盛大にがっかりすることとなる。
まあこの世界がそんな普通なところじゃないのはわかっていたけれどね。
更新日:2017-11-30 11:14:02