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エセルバード

「これは笑えないレベルのやつ!!」

 虫どもはフェア精神のかけらもなく、よってたかって弱者をぼこぼこにしていた。

 ぼこぼこにされている弱者は言うまでもなく俺だけど。


 殴られ飛ばされる先には違う虫がいて殴られる。飛ばされた先にまた違う虫がいるから、精一杯かわすと回避先にもまた虫がいる。

「これなんて言うむりげー!!?」

 虫たちにいいようにいじめられる。

 サッカーなどのボールたちはこういう気分を味わっていたのか。

 そんなくだらないことを考えられるくらいには余裕があるが、打開策は全くない。

 圧倒的物量の前に、一対一なら何とかなる程度の能力ではなすすべがなかった。


「こういうとき、物語の定石としてはヒロインが助けに来てくれたりすると思うんだけどな!」


 異世界にやってきていまだヒロイン属性とは出会っていない。

 ここが彼女の登場シーンなら納得だ。それでこそ異世界ファンタジー。


「痛いけどなんかあれだな、痛いだけで実害がないから案外このままどうにかなるんじゃね」


 そんなフラグすぎる発言をすぐに後悔する。

 いままでただ蹴ったり殴ったりされていたので、虫たちの攻撃手段は打撃しかないものだと思い込んでいた。

 考えてみれば、生物であれば必ず備えている器官をいつまでも攻撃に使わないわけがない。

「――っ!」

 突然右前腕に走る鋭い痛みに、蹴り飛ばされながら声を上げる。

 ゴロゴロを地面を転がり、違う虫のもとへ。

「――っ!」

 今度は左ふくらはぎにより鋭い痛みが走り、遅れて蹴り飛ばされる。

 飛ばされ目まぐるしく視界が上下する中、いまだ鋭い痛みを蓄える前腕を見ると、ごっそり肉がそげていた。

 理解して、即座に起き上がる。

 当然虫の目の前。

 振りかぶった虫の腕を何とか払い、たたらを踏みながらもようやく二本の足で立ち上がる。

 しかし、ふくらはぎの痛みに立ち上がる以上のことはできない。

 おそらく腕と同じように肉がえぐられているのだろう。

「俺の不死力って、咀嚼されちゃっても生き返れたりすんのかな」

 あまりにも間の抜けた疑問だったと思う。

 目の前の虫は大きく口を開け、さらに俺の体から肉をえぐろうとしているところだったのだから。

 視界には映っていないが、周囲からほかの虫も接近しているだろう。

 異世界での戦闘、連続した負傷、あふれ出るアドレナリン。

 ああ、さすがに死ぬわこれ――


「よお、元気してるか」

 こんなものかと死を受け入れそうになった瞬間、目の前の虫が物理的に押し潰され、聞き覚えのある声が響く。

「……えば?」

「なーに呆けたつらしてやがる」
「なんでこんなとこいんの?え、つか強」

「おいおい勘弁してくれよ、これでも俺はなかなかの実力者なんだぜ」

 そういってエバはいかつい顔をほころばせる。

「こういうのって、ヒロインの女の子が助けてくれて壮大なストーリーが幕を開けるものじゃないんですかね」
「ヒロイン?よくわかんねえけど助けなかったほうがよかったのか?」

 口の中でストーリー展開に不満をこぼす。

 何はともあれ助かったようで安心した。

「おっしゃエバさん!ちゃちゃっとやっちゃってくださいや!!」
「調子いいなてめえ」

 苦笑しつつもバタバタと虫を蹴散らしていくエバ。
 会話しつつ片手間に討伐していく様子は、圧倒的強者のそれだった。

更新日:2018-04-23 11:23:14

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異世界に行かせてもらえるというからやる気だしたのに