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会敵
「――――!」
キとシの間のような声で目の前の昆虫は叫ぶ。
左右の手を振り上げて、声を荒らげて、大きく仁王立ちするその姿は、間違いなく俺を威嚇していた。
「お前、ほんとにバッタかよ」
目の前に現れた昆虫は、予め聞いていたバッタとは異なる外見だった。
体長は2メートルほど。細長くスラっとした体からは、腕と足が合わせて六本生えている。体色は黒にだいぶ近い茶。目立った模様などはないが、迷彩のように色に濃淡がついている。
少しずつ近づいてくるそれを前に、まずは逃走を考えたが、背中のかごが重すぎて早く動けそうにない。下手に背を向けて後ろから襲われるのは勘弁だ。
かごを置けばいくらか早く動け、こいつからは逃げられるかもしれない。ただ、ニアたちとの合流を目指すうえで、彼女たちのいる方向はこの虫の背中側なのだ。
現代っ子である俺は、逃げることに全力を傾けたなら方向を見失い森をさまよう自信があった。
「えー、どうしよ」
我ながら緊張感のかけらもないのは、ゴブリンにやられた時のように、どこから出てくるかわからないという恐怖がないからかもしれない。
単に不死力に無駄な自信を持ってしまっただけかもしれないが。
「よし、強制排除だ」
せっかく異世界にきて、しかも強力な不死力なんて特典もついてるんだ、ここは冒険のしどころだろう。
「タナカ英雄譚の栄えある犠牲者第一号にしてやろう。だからちょっと待っててくれ」
誰もいないので格好をつける。
とりあえずかご邪魔。いったん置いとこう。
「――――!」
かごをおこうとかがんだところで、容赦なくぶん殴られた。
「――ぶっ!」
想像以上のスピードに、想像以上の攻撃力に、想定外のタイミングで受けた攻撃になすすべもなく吹っ飛ばされる。
「いったぁ!は!?めっちゃ痛いんだけど!!」
ただの腕だか足だかの打撃だ。しかしまるで鉄パイプででも殴られたかのような痛みだった。
「うそでしょ、ちょっと待てよ。いやさ待ってくださいよ!」
不死力とやらのおかげか、ただの耐久力の問題か、とりあえず骨とかに異常はないようだがズキズキと痛む。
タナカに一発くれた後、その場にとどまっていたそいつは、片足を前に出し半身の体制になる。
「なんっでそんな人間らしい構えなのさ六本腕なのに」
とりあえずこいつぶっとばす。
起き上がり映画のアクションシーンのように構える。
つぎに突っ込んできやがったら、まずは腕をとってぽきっと折ってやる。キチン質だかわからないが、昆虫らしく細長い手足を標的にする。
「――――!」
しかし意識していたはずなのに、一瞬で間を詰められ、再びぶん殴られる。少なくとも腕をとって関節技を決める余裕はなかった。
しかしぶん殴られながらも、腕の一本を右手でしっかりとつかむ。
「痛いってわかってりゃあ耐えられるんだよ!」
つかんだ腕を引っ張りよせカウンター気味に、顔面に当たるであろうか所を思いっきりぶん殴る。
引っ張っていたやつの腕は、殴り飛ばした拍子に根元からちぎれた。
吹っ飛ばされたバッタはすぐに起き上がり、再び半身の体制になる。
ちぎれた腕の傷口からは、ドロッとした緑色の液がにじんでいた。
「気持ちわりいな、くそが」
現世では人間相手に殴り合いのけんかなどしたことはなかったが、異世界という非現実の下では何でもできる気がした。
ぶっちゃけ異世界で戦闘とか興奮しかしない。
「――――!」
「しかし俺はクレバーな男だ!!」
先頭の興奮にのまれながらも、クールに思考は続ける。
バッタの鳴き声に合わせて、俺は右ストレートを繰り出す。正直突っ込んでくるやつの姿など見えてはいない。だが、必ず正面にまっすぐ飛んでくると予想してこぶしを振ったのだ。
予想通り右ストレートはバッタにジャストミートした。
「――!――!」
さすがに完ぺきなカウンターを食らえば立ち上がれないのか、地面をゴロゴロと転がっている。
「……まじであたったわ。さすがにここまでとは」
予想以上の成果に、こぶしを振りぬいたままの姿勢でつぶやく。
「――――――――――――――!!」
さきほどまでのキとシの間のような声とは違い、より高い音の言葉で表せない声でバッタが叫ぶ。
いまだ起き上がれず地面に張ったままの状態での突然の咆哮。
「な、なんだよ。なんなんだよ」
行為の意図がわからず動揺してしまう。
動揺の発生源を鎮めようと、叫び続けるバッタのもとへ向かう。
しかし、すぐに歩みは止められた。
断末魔のような叫び声につられて。
獲物が、敵が、倒すべき驚異の居場所を伝えられて。
次々と茂みから姿を現す二足歩行昆虫によって。
気づけば俺は、数十体以上の虫に包囲されていた。
キとシの間のような声で目の前の昆虫は叫ぶ。
左右の手を振り上げて、声を荒らげて、大きく仁王立ちするその姿は、間違いなく俺を威嚇していた。
「お前、ほんとにバッタかよ」
目の前に現れた昆虫は、予め聞いていたバッタとは異なる外見だった。
体長は2メートルほど。細長くスラっとした体からは、腕と足が合わせて六本生えている。体色は黒にだいぶ近い茶。目立った模様などはないが、迷彩のように色に濃淡がついている。
少しずつ近づいてくるそれを前に、まずは逃走を考えたが、背中のかごが重すぎて早く動けそうにない。下手に背を向けて後ろから襲われるのは勘弁だ。
かごを置けばいくらか早く動け、こいつからは逃げられるかもしれない。ただ、ニアたちとの合流を目指すうえで、彼女たちのいる方向はこの虫の背中側なのだ。
現代っ子である俺は、逃げることに全力を傾けたなら方向を見失い森をさまよう自信があった。
「えー、どうしよ」
我ながら緊張感のかけらもないのは、ゴブリンにやられた時のように、どこから出てくるかわからないという恐怖がないからかもしれない。
単に不死力に無駄な自信を持ってしまっただけかもしれないが。
「よし、強制排除だ」
せっかく異世界にきて、しかも強力な不死力なんて特典もついてるんだ、ここは冒険のしどころだろう。
「タナカ英雄譚の栄えある犠牲者第一号にしてやろう。だからちょっと待っててくれ」
誰もいないので格好をつける。
とりあえずかご邪魔。いったん置いとこう。
「――――!」
かごをおこうとかがんだところで、容赦なくぶん殴られた。
「――ぶっ!」
想像以上のスピードに、想像以上の攻撃力に、想定外のタイミングで受けた攻撃になすすべもなく吹っ飛ばされる。
「いったぁ!は!?めっちゃ痛いんだけど!!」
ただの腕だか足だかの打撃だ。しかしまるで鉄パイプででも殴られたかのような痛みだった。
「うそでしょ、ちょっと待てよ。いやさ待ってくださいよ!」
不死力とやらのおかげか、ただの耐久力の問題か、とりあえず骨とかに異常はないようだがズキズキと痛む。
タナカに一発くれた後、その場にとどまっていたそいつは、片足を前に出し半身の体制になる。
「なんっでそんな人間らしい構えなのさ六本腕なのに」
とりあえずこいつぶっとばす。
起き上がり映画のアクションシーンのように構える。
つぎに突っ込んできやがったら、まずは腕をとってぽきっと折ってやる。キチン質だかわからないが、昆虫らしく細長い手足を標的にする。
「――――!」
しかし意識していたはずなのに、一瞬で間を詰められ、再びぶん殴られる。少なくとも腕をとって関節技を決める余裕はなかった。
しかしぶん殴られながらも、腕の一本を右手でしっかりとつかむ。
「痛いってわかってりゃあ耐えられるんだよ!」
つかんだ腕を引っ張りよせカウンター気味に、顔面に当たるであろうか所を思いっきりぶん殴る。
引っ張っていたやつの腕は、殴り飛ばした拍子に根元からちぎれた。
吹っ飛ばされたバッタはすぐに起き上がり、再び半身の体制になる。
ちぎれた腕の傷口からは、ドロッとした緑色の液がにじんでいた。
「気持ちわりいな、くそが」
現世では人間相手に殴り合いのけんかなどしたことはなかったが、異世界という非現実の下では何でもできる気がした。
ぶっちゃけ異世界で戦闘とか興奮しかしない。
「――――!」
「しかし俺はクレバーな男だ!!」
先頭の興奮にのまれながらも、クールに思考は続ける。
バッタの鳴き声に合わせて、俺は右ストレートを繰り出す。正直突っ込んでくるやつの姿など見えてはいない。だが、必ず正面にまっすぐ飛んでくると予想してこぶしを振ったのだ。
予想通り右ストレートはバッタにジャストミートした。
「――!――!」
さすがに完ぺきなカウンターを食らえば立ち上がれないのか、地面をゴロゴロと転がっている。
「……まじであたったわ。さすがにここまでとは」
予想以上の成果に、こぶしを振りぬいたままの姿勢でつぶやく。
「――――――――――――――!!」
さきほどまでのキとシの間のような声とは違い、より高い音の言葉で表せない声でバッタが叫ぶ。
いまだ起き上がれず地面に張ったままの状態での突然の咆哮。
「な、なんだよ。なんなんだよ」
行為の意図がわからず動揺してしまう。
動揺の発生源を鎮めようと、叫び続けるバッタのもとへ向かう。
しかし、すぐに歩みは止められた。
断末魔のような叫び声につられて。
獲物が、敵が、倒すべき驚異の居場所を伝えられて。
次々と茂みから姿を現す二足歩行昆虫によって。
気づけば俺は、数十体以上の虫に包囲されていた。
更新日:2018-04-18 15:26:26