- 16 / 19 ページ
キノコ狩り
森に入ってしばらく、ほぼ平坦だった地面が、大木の根のせいで凸凹隆起し歩くのに難儀し始めたとき、それは姿を現した。
上部のフォルムは見知ったそれは、柄部分と同色の足を何本も生やしており、大木の傍にじっと佇んでいた。
真っ赤な傘には目玉模様がちりばめられており、例えるならT2ファージのような足を持ったそれは、目的のキノコだった。
「さあタナカ、キノコの生態は説明した通りだよー。捕まえて運ぼー!」
ギルドで聞いたキノコの生態、そらは菌類としてはありえないもので、この異世界でさえ害獣かつ魔獣という、どっちつかずに分類される。
このキノコは生存する土地に寄生する。彼らは土地からマナを吸収する目に見えない器官を持つ。彼らの築いたエリア内であればほぼ無限増殖するが、一度エリア外に運ばれてしまえば、マナ供給器官が破綻し、それだけで死に至る。
繁殖方法は当然胞子だが、同時に自由に動けるのは胞子時のみであり、発生してしまえばエリアに縛られる。個体により多少異なるが、成長によりエリアは大きくなり、およそ数十メートルに至る。
「イソギンチャクみたいな生き方だな」
特に道具も持たない手ぶらのまま、目の前の動かないキノコへ手を伸ばす。しかしシュバッ!というオノマトペのつきそうな動きで逃げられる。簡単には捕まらない。
ただ後退したのは数センチだけで、再び手を伸ばせば届きそうな目と鼻の先のまま。
「ていっ」「とおっ」「やあっ」
逃げはするが遠くにはいかないキノコに何度も手を伸ばすが、数センチ差で悉く逃げられ、伸ばした手は空を切る。
「うりゃっ」「そりゃっ」「とりゃっ」
タナカの役ただず具合にひとつ大きなため息をつき、ニアはタナカの追いかけていたキノコへ鋭く一歩踏み込む。柄を鷲掴みにし、片手で持ち上げたそれとドヤ顔とともに振り返る。ワシャワシャ蠢く足先をこちらに向けたキノコを一瞥し、多足類は裏返すべきじゃないと痛感する。
「タナカ捕まえられないなら、あたしが捕まえるから運んでー」
「……りょーかい」
戦力外通知とともにキノコを受け取る。ニアは片手で持っていたが、ジタバタするキノコは一匹持つのが精一杯だった。
「よし、じゃあ運ぼー」
持ち方に苦心していると、あっという間に二体目を捕まえたニアとともに、捕獲地点から100メートル以上離れたところに置いて、再び捕獲地点に戻る。
「なるほどな。だれでもできるけど、だれもやりたがらない仕事なわけだ」
作業手順を改めて理解し呟く。
単純に面倒なのだ。
森の奥へ赴き、逃げ回るキノコを捕まえ、遠くに運んで、またキノコ狩りへ。行ったり来たりの単純作業。
討伐クエストでありながら、報酬が低いのもそのせいだろう。
元の場所に戻りながら、ふとよぎった疑問を口にする。
「なあニア、こいつら運んだりせずエリア内で殺せないのか?例えば刀で斬ったりして」
ニアはちらりとこちらをみ、端的に答えた。
「増えるよ?」
「は?」
「二つに切れば二体に、三つに切れば三体のキノコになるよー」
ファンタジーものにありがちな、切っても切っても死なない、分裂するだけという強能力をたかがキノコが有しているらしい。
「じゃ、じゃあ炎はどうだ?魔法で焼いちゃえば」
「森が燃えちゃうよー。すぐには死なないから、エリア内駆け回って延焼する」
それこそ愚問だと、質問を言い終わる前に答えられる。
あくまで目的はキノコ狩りであり、より正確にはキノコのみ狩ることにあり、キノコ以外に影響の出る手段とれるはずもないのだ。
かくして、捕まえて運んで殺すという、地味な討伐が成立するのだ。
その後何十回と往復し、肩で息するタナカと余裕そうなニアは、眼前に広がるキノコの絨毯をみて満足した顔を浮かべる。
「……やっと、終わりか」
最後に持ってきたキノコを並べ、へたり込む。
「結局タナカ一体も捕まえられなかったねー」
「うるせ。こいつら速すぎんの。おれ普通なの。おれがしょぼいんじゃないの」
切れ切れに言い訳を重ね、己の小さなプライドを繕う。
やりきった達成感とともに、目の前のキノコに触れる。感触はただのキノコだ。ブナシメジとかと大差ないな。違うのは大きさと、足の有無くらいか。
落ち着いて触れることで現世のキノコとあまり変わらないことに気づき、額に冷や汗を浮かべ、よぎった疑問を問う。
「ニアさん、こいつらこのあとどうすんですか?」
「おいしくいただくー!」
「そうだとおもったよ!だって殺したあと一箇所に集めておく必要ないもんな!食料も持ってないのに結構時間かかったしな!こいつら食べるなら全部解決だよ!」
「足が美味しいよー」
天使のような笑顔でゲテモノを推奨され、次の言葉が出てこなかった。
上部のフォルムは見知ったそれは、柄部分と同色の足を何本も生やしており、大木の傍にじっと佇んでいた。
真っ赤な傘には目玉模様がちりばめられており、例えるならT2ファージのような足を持ったそれは、目的のキノコだった。
「さあタナカ、キノコの生態は説明した通りだよー。捕まえて運ぼー!」
ギルドで聞いたキノコの生態、そらは菌類としてはありえないもので、この異世界でさえ害獣かつ魔獣という、どっちつかずに分類される。
このキノコは生存する土地に寄生する。彼らは土地からマナを吸収する目に見えない器官を持つ。彼らの築いたエリア内であればほぼ無限増殖するが、一度エリア外に運ばれてしまえば、マナ供給器官が破綻し、それだけで死に至る。
繁殖方法は当然胞子だが、同時に自由に動けるのは胞子時のみであり、発生してしまえばエリアに縛られる。個体により多少異なるが、成長によりエリアは大きくなり、およそ数十メートルに至る。
「イソギンチャクみたいな生き方だな」
特に道具も持たない手ぶらのまま、目の前の動かないキノコへ手を伸ばす。しかしシュバッ!というオノマトペのつきそうな動きで逃げられる。簡単には捕まらない。
ただ後退したのは数センチだけで、再び手を伸ばせば届きそうな目と鼻の先のまま。
「ていっ」「とおっ」「やあっ」
逃げはするが遠くにはいかないキノコに何度も手を伸ばすが、数センチ差で悉く逃げられ、伸ばした手は空を切る。
「うりゃっ」「そりゃっ」「とりゃっ」
タナカの役ただず具合にひとつ大きなため息をつき、ニアはタナカの追いかけていたキノコへ鋭く一歩踏み込む。柄を鷲掴みにし、片手で持ち上げたそれとドヤ顔とともに振り返る。ワシャワシャ蠢く足先をこちらに向けたキノコを一瞥し、多足類は裏返すべきじゃないと痛感する。
「タナカ捕まえられないなら、あたしが捕まえるから運んでー」
「……りょーかい」
戦力外通知とともにキノコを受け取る。ニアは片手で持っていたが、ジタバタするキノコは一匹持つのが精一杯だった。
「よし、じゃあ運ぼー」
持ち方に苦心していると、あっという間に二体目を捕まえたニアとともに、捕獲地点から100メートル以上離れたところに置いて、再び捕獲地点に戻る。
「なるほどな。だれでもできるけど、だれもやりたがらない仕事なわけだ」
作業手順を改めて理解し呟く。
単純に面倒なのだ。
森の奥へ赴き、逃げ回るキノコを捕まえ、遠くに運んで、またキノコ狩りへ。行ったり来たりの単純作業。
討伐クエストでありながら、報酬が低いのもそのせいだろう。
元の場所に戻りながら、ふとよぎった疑問を口にする。
「なあニア、こいつら運んだりせずエリア内で殺せないのか?例えば刀で斬ったりして」
ニアはちらりとこちらをみ、端的に答えた。
「増えるよ?」
「は?」
「二つに切れば二体に、三つに切れば三体のキノコになるよー」
ファンタジーものにありがちな、切っても切っても死なない、分裂するだけという強能力をたかがキノコが有しているらしい。
「じゃ、じゃあ炎はどうだ?魔法で焼いちゃえば」
「森が燃えちゃうよー。すぐには死なないから、エリア内駆け回って延焼する」
それこそ愚問だと、質問を言い終わる前に答えられる。
あくまで目的はキノコ狩りであり、より正確にはキノコのみ狩ることにあり、キノコ以外に影響の出る手段とれるはずもないのだ。
かくして、捕まえて運んで殺すという、地味な討伐が成立するのだ。
その後何十回と往復し、肩で息するタナカと余裕そうなニアは、眼前に広がるキノコの絨毯をみて満足した顔を浮かべる。
「……やっと、終わりか」
最後に持ってきたキノコを並べ、へたり込む。
「結局タナカ一体も捕まえられなかったねー」
「うるせ。こいつら速すぎんの。おれ普通なの。おれがしょぼいんじゃないの」
切れ切れに言い訳を重ね、己の小さなプライドを繕う。
やりきった達成感とともに、目の前のキノコに触れる。感触はただのキノコだ。ブナシメジとかと大差ないな。違うのは大きさと、足の有無くらいか。
落ち着いて触れることで現世のキノコとあまり変わらないことに気づき、額に冷や汗を浮かべ、よぎった疑問を問う。
「ニアさん、こいつらこのあとどうすんですか?」
「おいしくいただくー!」
「そうだとおもったよ!だって殺したあと一箇所に集めておく必要ないもんな!食料も持ってないのに結構時間かかったしな!こいつら食べるなら全部解決だよ!」
「足が美味しいよー」
天使のような笑顔でゲテモノを推奨され、次の言葉が出てこなかった。
更新日:2018-04-11 07:14:07