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面倒見てください
こんなはずではなかったんだ。
そう、俺はこんな仕事を望んでいたのではない。
もっと血肉胸躍る、異世界ファンタジーにふさわしいクエストを期待していたんだ。
そりゃさ、俺の期待していた討伐クエストとかの王道は、戦闘能力皆無の俺には荷が重いだろう。
しかし、しかしだよ、だからといってこれはないだろう。
「ちくしょう!やっぱ思ってたのと違う!!」
おれは手にもつ電々太鼓のような小児用の玩具を地面に投げつけた。
ことの発端は、俺がクエストの内容も確認しないうちに安易にアデルに同意したことにある。
そのときは最悪俺一人でもどうにかなるクエストということと、現在文無しの俺でもそこそこ稼げるうえに、作業は屋内だから寝泊まりの場所は提供してもらえるとのことで、おいしいクエストだと思った。
しかし現実は甘くなかった。
クエストの内容を聞くと、確かに昔話を語ってあげたりとか、わめきだした子がいたらなだめてあげたりだとか、一見簡単そうに聞こえた。
現世では一応手のかかる妹がいたわけだし、年下の相手は慣れているつもりだったのだ。
それがどうだ、いまはいいように手玉に取られて、むしろ俺が泣きわめきたい。
俺の言うことをまともに聞かないどころか、あちこちであれやこれやと勝手をしている。
作業は屋内限定で、契約期間中はできるだけこの建物から出てはいけないことになっている。それもそのはずだ。不用意に扉を開けようものなら逃げ出されかねない。
クエスト自体は俺一人でもなんとかなるものだと聞いた途端、まず逃げたのはニアだった。
もともとこの町出身であろう彼女には、アデルがこの状況で俺に振るクエストの見当がついていたのだろう、躊躇なく宣言した。
「タナカ、あたしいったん洞窟に戻るねー」
洞窟に戻って何をするのかというと、燻製肉を取りに行くとのことだった。
もともとたくさん作った燻製肉をこの街に卸すことが、本来の目的の一つだったらしい。俺がついていくということで、ギルドに俺を案内することを優先させたのだ。
まあクエストの契約期間は一週間だし、その間くらい一人でも構わないかと思っていた。
そこでこの世界での二人目の友人であるマチューを思い出した。
「なあ、ニアはああいってるけど、マチューはどうするんだ?いや、俺と行動する義理はないからクエストに来てほしいわけではないんだけども」
ちょっと一人でクエストということで不安になりかけたこともあって、少し頼り気味に聞いてみた。が、しかし。
「うふっ、私の本業は自宅警備員よ?行きたくないわね」
満面の笑みでそう答えるのだった。
「え、まじで?心の中で姉御とまで呼んでいたマチューさん実はニート!?」
「あら嬉しいこと言ってくれるわね。でもね、私の仕事はアデルの護衛なのよ」
「でも自宅警備員って……?」
「そう、私アデルと一緒に住んでいるから」
さらっと驚愕の暴露をしたマチューは素敵にほほ笑んだ。マチューの後ろでアデルまでも、愉快そうな顔をしている。
「そ、それって大丈夫なのか?一応いい年の男女がひとつ屋根の下って……。なに、そういう関係なの?」
そういうと二人は一瞬見つめ合ってふきだした。
「ないな!」「ないわね!」
なんだその信頼感は。
かくして、次なるクエストは俺一人で受けることになった。
まあ俺だけでも大丈夫ってんなら大丈夫だろう。
そうして現在、走り回る一体を鷲掴みにして叱りながら、もう片方の手で電々太鼓のようなものを再び扱い、数体まとめてなだめている。
その向こうでは、ほかのやつらがぴょんぴょん跳ね回りながらじゃれあっている。
こいつらが暴れまわるのは予め聞いていたのだが、まさかこれほどとは思ってもみなかった。
あっちにわらわら、こっちにわらわら。この狭い部屋の中で、どうして各所で問題が発生しうるのだ。
勝手に暴れまわる分にはいい。充分な運動をさせることは必要なことだと言われた。過度に暴れまわったり、危険な行為に及んだりしたときに行動してくれという話だった。
こいつら危険な行動しかしねえ。
暴れまわって転げまわって傷でもつこうものなら俺が怒られるんだからな。
そうして数時間、多少の休憩をはさみながら日中作業を終えた。そして陽が沈むと、勝手に寝床についた奴らの前で俺も横になりながら昔話をする。
はじめのうちは童話などを話していたが、次第にネタがなくなった。
そこでこの世界での出来事は俺にとっては奇怪なことばかりだと思い、逆に俺の普通はこいつらにとって奇怪なのではと、かつての日常を語るようになった。
まあ、この世界で一番の奇怪は、目の前で寝ている野菜たちなのだが。
この世界の野菜は日が昇ると駆け出して、陽が沈むと畝で寝るらしい。
そう、俺はこんな仕事を望んでいたのではない。
もっと血肉胸躍る、異世界ファンタジーにふさわしいクエストを期待していたんだ。
そりゃさ、俺の期待していた討伐クエストとかの王道は、戦闘能力皆無の俺には荷が重いだろう。
しかし、しかしだよ、だからといってこれはないだろう。
「ちくしょう!やっぱ思ってたのと違う!!」
おれは手にもつ電々太鼓のような小児用の玩具を地面に投げつけた。
ことの発端は、俺がクエストの内容も確認しないうちに安易にアデルに同意したことにある。
そのときは最悪俺一人でもどうにかなるクエストということと、現在文無しの俺でもそこそこ稼げるうえに、作業は屋内だから寝泊まりの場所は提供してもらえるとのことで、おいしいクエストだと思った。
しかし現実は甘くなかった。
クエストの内容を聞くと、確かに昔話を語ってあげたりとか、わめきだした子がいたらなだめてあげたりだとか、一見簡単そうに聞こえた。
現世では一応手のかかる妹がいたわけだし、年下の相手は慣れているつもりだったのだ。
それがどうだ、いまはいいように手玉に取られて、むしろ俺が泣きわめきたい。
俺の言うことをまともに聞かないどころか、あちこちであれやこれやと勝手をしている。
作業は屋内限定で、契約期間中はできるだけこの建物から出てはいけないことになっている。それもそのはずだ。不用意に扉を開けようものなら逃げ出されかねない。
クエスト自体は俺一人でもなんとかなるものだと聞いた途端、まず逃げたのはニアだった。
もともとこの町出身であろう彼女には、アデルがこの状況で俺に振るクエストの見当がついていたのだろう、躊躇なく宣言した。
「タナカ、あたしいったん洞窟に戻るねー」
洞窟に戻って何をするのかというと、燻製肉を取りに行くとのことだった。
もともとたくさん作った燻製肉をこの街に卸すことが、本来の目的の一つだったらしい。俺がついていくということで、ギルドに俺を案内することを優先させたのだ。
まあクエストの契約期間は一週間だし、その間くらい一人でも構わないかと思っていた。
そこでこの世界での二人目の友人であるマチューを思い出した。
「なあ、ニアはああいってるけど、マチューはどうするんだ?いや、俺と行動する義理はないからクエストに来てほしいわけではないんだけども」
ちょっと一人でクエストということで不安になりかけたこともあって、少し頼り気味に聞いてみた。が、しかし。
「うふっ、私の本業は自宅警備員よ?行きたくないわね」
満面の笑みでそう答えるのだった。
「え、まじで?心の中で姉御とまで呼んでいたマチューさん実はニート!?」
「あら嬉しいこと言ってくれるわね。でもね、私の仕事はアデルの護衛なのよ」
「でも自宅警備員って……?」
「そう、私アデルと一緒に住んでいるから」
さらっと驚愕の暴露をしたマチューは素敵にほほ笑んだ。マチューの後ろでアデルまでも、愉快そうな顔をしている。
「そ、それって大丈夫なのか?一応いい年の男女がひとつ屋根の下って……。なに、そういう関係なの?」
そういうと二人は一瞬見つめ合ってふきだした。
「ないな!」「ないわね!」
なんだその信頼感は。
かくして、次なるクエストは俺一人で受けることになった。
まあ俺だけでも大丈夫ってんなら大丈夫だろう。
そうして現在、走り回る一体を鷲掴みにして叱りながら、もう片方の手で電々太鼓のようなものを再び扱い、数体まとめてなだめている。
その向こうでは、ほかのやつらがぴょんぴょん跳ね回りながらじゃれあっている。
こいつらが暴れまわるのは予め聞いていたのだが、まさかこれほどとは思ってもみなかった。
あっちにわらわら、こっちにわらわら。この狭い部屋の中で、どうして各所で問題が発生しうるのだ。
勝手に暴れまわる分にはいい。充分な運動をさせることは必要なことだと言われた。過度に暴れまわったり、危険な行為に及んだりしたときに行動してくれという話だった。
こいつら危険な行動しかしねえ。
暴れまわって転げまわって傷でもつこうものなら俺が怒られるんだからな。
そうして数時間、多少の休憩をはさみながら日中作業を終えた。そして陽が沈むと、勝手に寝床についた奴らの前で俺も横になりながら昔話をする。
はじめのうちは童話などを話していたが、次第にネタがなくなった。
そこでこの世界での出来事は俺にとっては奇怪なことばかりだと思い、逆に俺の普通はこいつらにとって奇怪なのではと、かつての日常を語るようになった。
まあ、この世界で一番の奇怪は、目の前で寝ている野菜たちなのだが。
この世界の野菜は日が昇ると駆け出して、陽が沈むと畝で寝るらしい。
更新日:2018-02-20 01:45:10