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始まりの日

 始まりの日の朝はひどく気怠った。

 これから赴くべき場所を考え、憂鬱にならざるを得ない俺は、ゆっくりと瞳を開け、いつまでも鳴り響く目覚めの相棒押さえた。

 不快な音が鳴りやむと同時に、新たなる音が錯綜する。

 深夜、街の安寧のために尽力する俺にとって、目覚めは決して気持ちの良いものではない。しかし、この俺の出現を心待ちにする者たちがいる以上、己の弱さに屈するわけにはいかないのだ。


「ちょっとー、そろそろ起きないと遅刻するわよー!」
「あ、うん、起きてる!今準備してるとこ!」



 ……。


 ふっ。もうおちおちと休んでもいられないか。

 指示された法具たちを封印の小箱に詰め、礼装に身を包み込む。
 
 燭台を手に取り祈りをささげる。

「我、主に従う者。今宵開かれる祝宴、主への……」
「お兄ちゃん!今日入学式でしょ!ほんとに遅れるよ!お母さんカンカンだよ!」

 妹は叫びながら部屋に飛び込み、勢いそのままに俺を蹴り飛ばす。

「いったいな!だから今準備してるって言ってんじゃん!」
「うるさいよ!何が準備だ、どうせあがめてもいないのになんかかっこいいからって、『主よ』とかなんとか呟いてるだけじゃん」


 こうも面と向かって言われると多少気恥ずかしいものがあるが、されど我に後ろをを振り返ることは許されていない。かつて邪神と戦ったとき、散り際の奴にかけられた呪いは、いまだ我の魂を蝕んでいる。


「独白長い!はやく、ちゃっちゃと準備して、今日始業式でしょ!」

「わかったわかったって。ちょっとまて、あと少しやることが……」

「はぁ、もうやることなんかないでしょ、始業式なんだから。いくら友達零人が自慢の兄でも、コミュ障こじらせて始業式すら行きたがらないとかさすがに妹恥ずかしいよ」

「うぅ、その通りだが。く、貴様まさかやつに俺の弱点を聞いてきたな。そうはさせない、俺を待っている人たちのためにも負けられないのだ」

「はいはい、学校行きましょうねー」



 こうして俺の日々は始まりを迎えたのだ。

更新日:2017-11-26 00:10:15

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異世界に行かせてもらえるというからやる気だしたのに