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浩一の場合

 俺は探偵業を営んでいる。というのが、唯一の自慢だった。探偵といっても名ばかりで、ほぼ便利屋に近い。大抵は猫探し、引っ越し、時にはハチの巣駆除...。
 そんな毎日である。仕事がある日はまだいい。ない時のオフィスの寂しさときたら、南極のように静かでひんやりしている。行ったことはないが。

 -3日前

 いつものように、ぼんやり窓下を眺めていると、心地よいパンプスのヒール音が外の廊下から響いてきた。珍しい。そう思っていると、だんだんと音は量を増し、うちの入り口前で止まった。
 入ってきたのは、20代と見られる女性だった。華やかな髪色と化粧のせいか、一気に空気が明るい。
「大塚探偵事務所は、こちらでしょうか…?」
「いかにも。私がオーナーの大塚浩一です。どうぞこちらへ。」
滅多に使わない名刺と客間に案内し、お茶を入れる。探偵らしさがぷんぷんで、思わずにやけてしまいそうだ。
「で、お客様はどういった内容で、うちへ?」
「…私を見張っててほしいのです。」
「…あなたを?」
きっと俺は情けないほどあきれた顔をしたのだろう。女性は少し眉を吊り上げる。
「3日後、とある喫茶店で私を見張ってほしいの。これは私の命に関わるんだから!」
「命に?」
彼女は依頼内容を、ぼそりぼそりと話し始めた。

 -今日

 彼女は、約束通り喫茶店に来た。先ほどから観察しているが、変わったことは何もない。この間よりも、少しくたびれた顔をしているくらいだろうか。まぁ無理もない。
「ありがとうございます!!」
店中に響き渡る声、それが合図だった。


更新日:2017-12-04 16:44:07

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