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ネジと歯車とプライド

真っ暗闇で目が覚めた。おまけに少し肌寒い。
ヒンヤリと冷えた堅い床の感触が、背中越しに伝わってくる。
どうやら、私は眠っていたようだ。
ようだ、というのは、私の記憶がどことなく曖昧で、こんな暗い場所に来た記憶も、眠りに落ちた記憶もないからだ。

あれ……?というか、何も思い出せないな。
少し頭がふらふらする。
それでも意を決して立ち上がろうとすると、体に力が入らなくて前に転んでしまった。

「痛ったぁ……」

おでこをさすりながら、手探りで周りの状況を確かめてみる。
しかし私の手は空を切るばかりで、一寸先の状況さえも分からない。
どうして、私はこんな所にいるの?誰がこんな場所に連れてきたの?
ひたすらに疑問が浮かんだ。
だけど記憶がほとんどないもので、答えも、見当すらつくはずもない。
今すべきことが私にはわからないけれど、それでもこの場所にいてはいけないような気がした。
暗いからだろうか、それとも寒いからだろうか、少し湿度が高いせいもあるからか、この場所にいては不快だ。
せめて明かりだけでもあれば、まだいいんだけどな……。
埃臭くて、私は少し咳き込んだ。

「おや、聞きなれない声が聞こえたね。そっちの方で、また誰かが目覚めたみたいだよ」
「……!?」

えっ、誰?誰の声?
この場にいるのは、私だけかと思っていたのに。
でもそうか。周りが何も見えない状況じゃ、判断のしようもない。
ここが広い場所なのか狭い場所かも分からないし、他に誰かがいるのかいないのかも分からない。それが、私にとって敵なのか味方なのかも。
もう少し慎重にならなくちゃ、なんて思ったのも後の祭り。
既に誰かの気配が、こちらに向けられている。

「マーク、ちょっと見てきてくれないか。……は?じゃあレインは?……ったく、あんたら不甲斐ない奴らだね。麻雀ばっかしてねーで、新入りくらい歓迎してやれっての」

なになに?他にも誰かいるの?

「おいマーク、光よこせ。……どうも」

足音が近づいてきた。まずい、逃げよう。
再び立ち上がろうとしたものの、力が入らなくてまた転んでしまう。
こうなったら這ってでも……。
多分このままでは私は見つかってしまうだろうけれど、少しでも抵抗はしなくちゃ。

冷たい床を、ほふく前進がごとく、這いながら進んでいく。
けれどすぐ、ゴツン、と何かに頭をぶつけた。

「痛~~ったぁ……」

なにこれ、壁?あ、壁だ。
どうやら私は壁の近くにいたらしい。
それでわざわざ壁の方に進んで、頭をぶつけたと。
アホか私は!

「おや、何面白い事してんの、あんた。壁に向かって土下座するのが趣味かい?なんつって」

更新日:2017-11-05 22:54:48

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