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2.出会い



 お昼休み、廊下を歩いていると、大きな箱を両手で抱えながらヨタヨタとこちらに向かって歩いてくる女の子がいた。
 箱のうしろに顔が隠れていて誰かわからない。同級生かな?
 ぶつからないように私は廊下の右側に寄った。
 するとその女の子も右側に寄った。ひょっとして私が見えてない?
 今度は私が左に寄った。箱の向こうから小さな顔が覗いた。
 あれは芦田さん? と思った瞬間、女の子は箱を持ったまま見事にこけた。
 ずてーんっと絵に描いたようなこけ方だった。思わず笑いそうになる。
 女の子はよろよろと立ち上がると私に気づき「石谷さん、大丈夫、ですか?」と訊ねた。
 やっぱり芦田さんだった。芦田智子、同じクラスの女の子だ。
「私は全然大丈夫、そっちこそ大丈夫? 怪我してない? ずいぶん派手にこけたわね」
「えへへ、私ってブスだから、いつもこうなの」
 芦田さんはまた大きな箱を両手で抱えた。
「この箱、どうするの?」私が訪ねると「先生に音楽室に持っていくように頼まれたの」と答えた。
「私も手伝うよ」私はそう言って箱の反対側を持った。
「ほんとにっ! 石谷さん、ありがとう。私が先生に頼まれた仕事なのに」
 芦田さん、すごく嬉しそうな顔してる。
「別にいいって。気にしないで」
 私たちは大きな箱を両側から持って歩き始めた。
「芦田さん、さっきブスって言ったけど、ドジの間違いなんじゃないの?」
「でも、ブスでしょ?」
 芦田さんの目がこちらをじっと見つめる。
「うーん、そうでもない」
 私は少し考えてから答えた。
「そうでもない?」
 この子、それ以上の答えを要求してるの?
「そんなことない・・ブスじゃない」
 私はきっぱりと否定してあげる。
「そっかあ」
 芦田さんは私の否定に満足そうだ。
「この箱、中身、何なの?」私は箱を顔で指して訊ねた。
「一年生用の笛、たくさん入っているよ」この子、なんだか楽しそう。
「なんで、芦田さんが?」
「私って、頼まれやすいのかなあ」
 そうでしょう、そうでしょう。この子、そんな感じの女の子だ。

更新日:2017-11-07 15:52:34

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