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「あー喉乾いたなぁ」

俺は鈴木の向こうにある白い壁に向かって呟いた。すると鈴木も顔を上げて言った。

「ビール飲みたいねぇ」
「まだ14時だぞ?」
「もう14時」
「この時間はまだお茶だろ?烏龍茶が丁度いい」
「なぜ?」
「午後に緑茶を飲むと寝られない」
「嘘」
「嘘じゃないし」
「紅茶は?」
「紅茶もいいね。ケーキには紅茶だ」
「それは否定しない」

木ノ下さんに拘束されてから、すぐに荷物と共に鈴木まで運び込まれた。
俺たちに用意された部屋は八畳間で、なぜかベッドも二台ある。事務所なのに、だ。どうやら家にも帰らせてもらえないようだ。

お互い向き合ってpcに打ち込み作業をしていると、扉をノックする音がしてすぐに舎弟のミナミが入ってきた。

「朝香さん、お飲み物お持ちしました」
「え?頼んでないよ?」
「若頭の気遣いです。どうか飲んで下さい」

そう言ってミナミは冷蔵庫に烏龍茶と紅茶のペットボトル、それに缶ビールを入れた。
ミナミが出て行ってから再びキーボードを叩き始める。それとなくメール画面に切り替えた。

< やっぱ盗聴器付いてるね >
< あからさますぎるw >
< あんま調子にのるな>
< すいません。思わず本根が>
< 鈴木、すまん >
< どんまいです。生きてて良かった >
< うん。マジでキンタマ縮み上がった >
< 下品 >
< すまん >
< それで?>

鈴木に聞かれて事の経緯を話した。

< 長期化するとまずいですね >
< まずいね。何か策を考えよう>

俺と鈴木はお互いに腕組みをし唸った。鈴木がずり落ちた眼鏡を指で押し上げる。切れ長の瞳が細められた。

更新日:2018-05-02 20:10:17

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