• 76 / 128 ページ

第12章―Ⅱ:北の大狼

――フェルティ港。
そこはフェルティ国最大の港で、様々な国から海路で渡ってきた多数の貿易船が集い、数多の貿易品が取り引きされる場所。

小肥りの商人達が帳面を手に品々の交渉をしたり、上半身裸になって様々な色の肌を晒した船乗り達が荷を取り扱う中、ひとりの若い男が忌々しげな表情で辺りを見回していた。

男は歳の頃は二十代だろうか、背丈が有って鍛えられた逞しい身体つきをしており、陽に焼けたような艶やかな茶の肌、蒼の混じった長い黒髪はざっくばらんにひとつに纏められ、髪と同じ色の瞳はぎらぎらとした光を放っている。
そして何より男の格好が周りの船乗りとは全く異なっており、獣の毛皮を織り込んだ服を纏い、腰には大きさの異なる二振りの鉈がぶら下がっていた。

「(ちいっ、何なんだよこの暑さはっ!糞ったれっ!)」

男は異国の言葉で口汚く罵ると、上着を脱いだ。

「(ったく…あの馬鹿、何処に行きやがったんだ!)」

脱いだ上着を肩に掛け、辺りを見回し誰かを探していたが、そんな男にひとりの、やはり男と同じような服装、だが少しは軽装の、をしたやや中年の男が近づいてきた。

「(フェンリル様)」

「(ギアランか、あれは見つかったか?)」

「(いえ…未だ見つかりません)」

男、ギアランの報告に若い男は益々表情を歪ませた。

「(見つからないだと!ったく…一体何処に行きやがったんだっ!)」

男は怒りの余りに傍にあった荷のひとつを蹴りあげた。

「(落ち着いて下さいませフェンリル様。この暑さで御座います。シャネリア様もそうそう遠くへは行けない筈です…)」

「(だが未だ見つからないのだろうが!あいつありったけの宝石を身につけていたからな、それ目当ての強盗に襲われたかもしれん)」

男、フェンリルの言葉にギアランはぎょっとしたように表情を強張らせた。

「(ま、まさかそのような事は!?)」

「(有り得ん話ではないだろう。あの馬鹿、御忍びだから派手するなと言ってたのに…。
くそっ!もし賊がシャネリアを襲ったならば、俺が賊を独り残らずぶった斬る!)」

二人が物騒な会話を続けていると、もうひとりの男が、やはり二人と同じような様相の男が二人に近付いてきた。

「(フェンリル様!シャネリア様が見付かりました!)」

「(何っ!?)」

男の報告に、フェンリルとギアランが驚きの声をあげるが、

「(何処だ!何処に居るんだ!何故ここに連れて来ない!)」

従者のみで、男達の探し人の姿が無いのに、フェンリルは不満を露にする。

「(お待ち下さいフェンリル様。シャネリア様は街中でお倒れになられて、自衛団という者達の集う館に連れていかれたとの事です)」

「(自衛団?!何だそれは?)」

「(まさか賊の集団とかではあるまいな!)」

二人の言葉に男は首を横に振った。

「(それは違います。何でも自衛団とはこの国を護る兵士集団のようなものだという事です。恐らくシャネリア様は拐かされたのではなく保護されたの…)」

「(何処だ?その自衛団という連中の居る館は!)」

男の話を遮り、フェンリルが突然尋ねてきた。

「(そ、それは…街の者の話ではこちらのほうと…)」

「(行くぞ!お前らもついて来い!)」

男がある方向を示すと、フェンリルは脱兎の如く駆け出していった。

「「(お、お待ち下さいっっ!!)」」

更新日:2018-08-14 21:12:18

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook