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第12章―Ⅰ:異国からの襲撃者

――その日は朝から晴天の、だが異様に蒸し暑い日であった。
フェルティ国も、通常の炎(=夏)の時期とは違う異様な暑さに人々は辟易していた。

「……暑い」

久しぶりの休暇で屋敷に居たジーフェスもまた、余りの暑さにばて気味であった。
自分の部屋の中ということで、上半身裸の下着一枚の姿で扇子をあおぎ、足を桶に水をはったものに浸けて慰め程度に涼をとっていた。

「何だ今日の暑さは…こんな状態じゃあ昼間はまともに過ごせないぞ…」

流れる汗を拭きながら暫し考えていると、突然ぱたぱたと足音が聞こえてきた。

「…?」

“あの足音はエレーヌか?あんなに急いで一体何事だ?”

「旦那様ー大変で…?!きゃあああっ!」

ジーフェスがそう思うや否や、ノックもそこそこにいきなり扉が開かれて突然エレーヌが姿を現し、だが目の前のジーフェスのみっともない姿に思い切り叫びだした。

「な、何ですか旦那様あっ!そんな破廉恥な格好なんてーっっ!!」

顔を反らしながらも、ちらちらと視線を向けつつ大きな声で叫ぶエレーヌ。

「な…俺の返事を聞かずにお前がいきなり扉を開けるからだろうっ!」

ジーフェスも慌てたように飛び上がって部屋の隅に移動して、慌ててそこに置いていた服を着ていく。

「あっ、そうだった!大変なんですっ!サーシャ様が倒れてしまったのですぅー!」

「サーシャが、倒れた!?」


      *


「…少し熱があって汗が余り出ていない、脈が少し乱れているから恐らく水分不足による軽い熱中症だろう。大丈夫、生命に関わるものではない」

客間のソファーで横になっていたサーシャにジーフェスが触診等をしてからそう告げた。

「すみません、心配かけてしまって…つい庭のお手入れに夢中になってしまって…」

弱々しくそう言うと、サーシャは窓から見える庭に視線を向けた。
今日はこの暑さの為に庭の整備はお休みになっていた。

「庭の手入れをしていたのか!こんな暑い日に長時間外に出るのは駄目だよ!
今日は無理しないで涼しい部屋でゆっくりと身体を休めて、砂塩水(=イオン飲料のような飲み物)を飲むように、解った?」

「はい…」

ジーフェスから少し窘めるように言われてしまい、しゅんとなるサーシャ。

「でも大したこと無くて良かったです〜」

エレーヌがレモン入りの砂塩水を持ってきてサーシャに手渡した。

「はい、ハックさん特製のレモンと蜂蜜入り砂塩水、すっごく美味しいですよー」

「ありがとうございます」

エレーヌからグラスを受け取ったサーシャは早速口をつけてみた。

「美味しい。レモンの酸味と仄かな甘味に…微かな塩味がとても合ってて飲みやすいです」

余りの美味しさと喉が渇いていた事もあって、サーシャは一気に中身を飲み干してしまった。

「おいおい、一気に飲むとお腹にくるぞ」

そんなサーシャの様子に苦笑いしながらも安心したように呟くジーフェス。

「お前達も仕事の合間に砂塩水をこまめに飲んどけよ。特にタフタは高齢者だから暑さに鈍いからな、気付いた時は手遅れの可能性もあるぞ」

「はーい、ハックさんに言って沢山作って貰っておきまーす」

呑気に返事して、ぱたぱたと台所に戻るエレーヌを見て、ジーフェスはふうと息を吐いた。

「さて…部屋には戻れるかい?」

更新日:2018-07-24 12:10:31

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