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「べ、別にあの人の事を思い出していた訳じゃ無いわよ」

「?」

畑違いの話に訳が解らず首を傾げるサーシャの姿に、メリンダははっと我に帰った。

「い、いえ…何でもないわ。
ところでジーフェスの姿が見えないけど、何処に行ったの?」

慌てて話題を変えようと別の話をふると、サーシャはああという表情で答えるのだった。

「ジーフェス様なら朝からマルガレータ様の診察と、あとは医師団に治療の引き継ぎをしに行ってるわ。もしかしたら昼過ぎまでかかるかもしれないって…」


      *


「ここはどうですか?痛いですか?」

ジーフェスの問い掛けにベッドで横になったままのマルガレータは無言で首を横に振った。

「そうですか」

――ジーフェスは朝一番からマルガレータのもとに来て彼女の診察を行っている。
ずっと彼女に付き添っていた父親のヤルドは外せない業務があるとかで席を外している。

傍らにはアクリウム医師団が数名居て、彼の診察の様子をじっと見守り、中には手帳に書き込みをする者まで居る。

「熱は昨夜よりは上がってますが傷口も炎症が有りませんし他の部位の麻痺や痛みも無いので大丈夫でしょう。
熱は一過性のものとは思いますが念のため定期的にこの薬を服用させて下さい。
あと傷口は一日三回はガザ等取り替えて、抗菌薬を一日一回服用させて下さい」

「了解致しました」

若い医師団の返事にジーフェスはほっと安堵の息をもらした。
国外追放を受けたジーフェスに皆が複雑な視線を向けるのに対し、当の本人は至って平然とした様子で診察・引き継ぎを行っていく。

「あと傷の件ですが、適切な処置を行っても恐らく首頸部を中心に瘢痕になって跡が残るでしょう。
若い女性で且つ美人だった御方なので、見た目の変化が気になるかと思いますので、その辺りの心の支えもお願い致します」

「それは私にお任せ下さい。私は心理学による治療も行っております」

医師団の中でも唯一の女性がそう告げてきた。

「それは心強い。是非ともお願い致します」

女性に頭を下げお願いすると、ジーフェスは安心したように顔をあげて一団を見回した。

「ジーフェス殿、その…」

「大丈夫、患者に何か異変があっても、皆さんの実力でしたら解決出来る筈です」

「……」

「ざっとで申し訳ありませんが、後は宜しくお願い致します」

そう告げて頭を下げると、ジーフェスは何か言いたげな医師団の皆にそれ以上声をかけず、無言のままの部屋を出ていったのだった。

      *


――サーシャの待つ部屋に向かう途中、窓からの明るい陽射しにジーフェスは目を細めた。

“陽射しが強いな。今日は暑くなりそうだな”

そんな考えをしていた彼の前に、突然ある人物が現れた。

「ジーフェス殿」

「貴方は」

それはアクリウム医師団の長である男であった。

「貴殿と二人きりで話をしたいのだが、宜しいかな?」

「……」


      *


「すまぬな、散らかっていて」

「いえ、大丈夫です」

――医師団の長の男に連れられ、ジーフェスは病院の奥にある男の私室兼書斎に来ていた。

周りに山積みになった医学書を倒さないよう避けながら、二人は部屋の中にある小さなソファーに腰掛けた。

「こんなものしか無いが、すまぬな」

更新日:2018-06-28 14:49:37

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