- 35 / 128 ページ
第11章―Ⅶ:追放
――コンコン。
マルガレータの眠る部屋の扉が叩かれ、声が聞こえてきた。
「交代の時間です」
その声に部屋の中に居た医師と看護師は扉に駆け寄り、同士を迎え入れた。
「マルガレータ様の御様子は?」
「変化は無い。脈も息も安定はしているが若干弱めだ」
「傷の様子は?」
「先程消毒を終えたが、炎症や拒絶反応は特に見当たらない。縫合も綺麗だし、正に完璧だな」
「ああ、俺も長いこと医師をしてきたが、あれほどの手術は初めて見たよ。
傷は大丈夫のようだが…あとは意識が回復するだけなのだが…」
声を潜め話をしていた医師と看護師達はちらりとベッドのほうに視線を向けた。
そこにあるベッドには未だ意識が戻らず眠ったままのマルガレータと、椅子に座り彼女に寄り添うようにしているヤルドの姿があった。
「マルガレータ…」
涙に濡れた虚ろな瞳でじっと娘を見つめ、動かない手を握り譫言のように呟く彼の姿に、皆が沈痛の思いになるのであった。
「今夜が勝負だな、それで目覚めなければ…」
それ以上の言葉を、誰もが口にする事が出来なかった。
*
「サーシャ様、食事をお持ち致しました」
こちらはジーフェスとサーシャが休んでいる部屋。
看護師のひとりが食事のワゴンを押して部屋の扉を叩いたが、返事が無い。
「…サーシャ様?」
痺れをきらして看護師がそっと扉を開けると、そこにはベッドの上で熟睡するジーフェスと、椅子に座り彼に寄り添うように眠るサーシャの姿があった。
サーシャの小さい手がジーフェスの大きな手をぎゅっと握りしめるその姿に、看護師はくすりと温かな笑みを溢し、そっとワゴンを部屋の中に置くと静かに部屋を後にした。
*
――ジーフェスが目覚めた時は、辺りはすっかり夜の闇に覆われ、窓から月明かりが射し込み辺りを優しい光が照らしている時分だった。
「……」
“ここは一体…”
先日まで居た部屋の様相とは全く異なる場所に、一瞬ジーフェスは何事かと頭を悩ませてしまった。
“ああ、そうか。確か夜会の席でマルガレータ殿が大怪我をして、その手術を俺が行った…”
だが物思いに耽る間も無く、ジーフェスの身体から酷い脱力感と空腹感とを感じた。
「…力が…」
“そうか、術後に砂糖水を飲んだきりでろくに食事をしてなかったからな。それで力が出ないのか”
何か食べ物が無いか辺りを見回し、そこで初めて自分の傍で寄り添うように眠るサーシャに気付いた。
“サーシャ、ずっとここに居たのか?ずっと俺の傍に居てくれたのか…”
自分を守るようにして眠るサーシャの姿が愛しくて、ジーフェスはそっと指先を頬に伸ばした。
「……ん」
軽く頬を撫でただけでぴくりと反応し、身体を動かしてサーシャは目を覚ました。
「ジーフェス、様…」
「ごめん、起こしてしまったね」
まさかこれ程の些細な事で起きるとは思わず、ついジーフェスは焦って上擦る声で謝罪した。
マルガレータの眠る部屋の扉が叩かれ、声が聞こえてきた。
「交代の時間です」
その声に部屋の中に居た医師と看護師は扉に駆け寄り、同士を迎え入れた。
「マルガレータ様の御様子は?」
「変化は無い。脈も息も安定はしているが若干弱めだ」
「傷の様子は?」
「先程消毒を終えたが、炎症や拒絶反応は特に見当たらない。縫合も綺麗だし、正に完璧だな」
「ああ、俺も長いこと医師をしてきたが、あれほどの手術は初めて見たよ。
傷は大丈夫のようだが…あとは意識が回復するだけなのだが…」
声を潜め話をしていた医師と看護師達はちらりとベッドのほうに視線を向けた。
そこにあるベッドには未だ意識が戻らず眠ったままのマルガレータと、椅子に座り彼女に寄り添うようにしているヤルドの姿があった。
「マルガレータ…」
涙に濡れた虚ろな瞳でじっと娘を見つめ、動かない手を握り譫言のように呟く彼の姿に、皆が沈痛の思いになるのであった。
「今夜が勝負だな、それで目覚めなければ…」
それ以上の言葉を、誰もが口にする事が出来なかった。
*
「サーシャ様、食事をお持ち致しました」
こちらはジーフェスとサーシャが休んでいる部屋。
看護師のひとりが食事のワゴンを押して部屋の扉を叩いたが、返事が無い。
「…サーシャ様?」
痺れをきらして看護師がそっと扉を開けると、そこにはベッドの上で熟睡するジーフェスと、椅子に座り彼に寄り添うように眠るサーシャの姿があった。
サーシャの小さい手がジーフェスの大きな手をぎゅっと握りしめるその姿に、看護師はくすりと温かな笑みを溢し、そっとワゴンを部屋の中に置くと静かに部屋を後にした。
*
――ジーフェスが目覚めた時は、辺りはすっかり夜の闇に覆われ、窓から月明かりが射し込み辺りを優しい光が照らしている時分だった。
「……」
“ここは一体…”
先日まで居た部屋の様相とは全く異なる場所に、一瞬ジーフェスは何事かと頭を悩ませてしまった。
“ああ、そうか。確か夜会の席でマルガレータ殿が大怪我をして、その手術を俺が行った…”
だが物思いに耽る間も無く、ジーフェスの身体から酷い脱力感と空腹感とを感じた。
「…力が…」
“そうか、術後に砂糖水を飲んだきりでろくに食事をしてなかったからな。それで力が出ないのか”
何か食べ物が無いか辺りを見回し、そこで初めて自分の傍で寄り添うように眠るサーシャに気付いた。
“サーシャ、ずっとここに居たのか?ずっと俺の傍に居てくれたのか…”
自分を守るようにして眠るサーシャの姿が愛しくて、ジーフェスはそっと指先を頬に伸ばした。
「……ん」
軽く頬を撫でただけでぴくりと反応し、身体を動かしてサーシャは目を覚ました。
「ジーフェス、様…」
「ごめん、起こしてしまったね」
まさかこれ程の些細な事で起きるとは思わず、ついジーフェスは焦って上擦る声で謝罪した。
更新日:2018-06-11 00:33:01