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サーシャの不安の呟きは、すっかり喜びはしゃぐメリンダの耳に届く事は無かった。


      *


「申し上げます。今夜開催の夜会にサーシャ王女が参加されるとの事で御座います」

――ここはアクリウム王宮内のとある一室。そこにはひとりの恰幅の良い中年男と、男の前に跪く、男の忠実たる家臣が居た。

「はあ!?あの忌まわしき王女が夜会に出席するというのか!確かあれは大巫女様の『神託』で他の国へ嫁いでこの国には居ないのではないのか?」

異様に突き出た腹を揺すりながら、中年男は忌々しげな顔付きで叫びだした。

「それが昨日から夫であられるジーフェス様と共に帰郷されておりまして…何でも女王陛下の勅命で夫婦で参加するとか…」

「女王陛下の勅命!?ならば大巫女様の『神託』だというのか!」

「…はい」

主人たる男の苛立ちの声に、家臣はびくびくしながら答えるのであった。

「今宵の夜会は女王陛下主催と聞いたので我が愛しい娘のデビューには相応しいと思っていたのに…あの忌まわしい王女と同席などとは、何と穢らわしいのだっ!」

中年男は怒りの余りに近くにあったテーブルに拳を叩き付けた。

「お、お怒りは御尤もで御座いますが…何分『神託』では…その…」

「解っておるわ!今更夜会にけちをつけたり、娘のデビューを中止になど出来ぬわ!」

「は、はあ…」

家臣の男は主人の荒れ様に冷や汗を拭いながらも、何とか機嫌取りが出来ぬかと必死に考えていく。

「う、噂では、サーシャ王女はメリンダ王女とは違い、容貌は人並みかそれ以下のものとか。メリンダ王女と並ぶ程の美貌を御持ちのマルガレータ御嬢様にとって良き引き立て役となるのでは…」

「引き立て役だと!?」

「は、はい…」

苦し紛れに思い付いた案に、中年男は一瞬怒りの顔をしたが、やがて暫し考え、

「成る程、確かあの王女の夫も東の僻地の蛮族の王子だったな。その手、使えるかもしれぬな…」

「では…」

「王族でありながら忌まわしき予言を受けし王女とその夫の蛮族の王子、卑下されるべき者同士の中で現れたるは、高貴なるアクリウム国の純粋たる貴族の血筋を持った美しき我が娘…
ふふふ、なかなかの演出ではないか!」

「そ、その通りで御座います」

ぐふふと不気味な笑みを浮かべ上機嫌に語る主人の様子に、男はほっと安堵の息を洩らし口調を合わせていく。

「良いぞ良いぞ!これ以上の演出は無い!おいお前、今すぐに夜会の参加者に事の由を伝え、夜会の席でサーシャ王女とその夫を徹底的に貶め、我が娘の株を上げるようにするのだ!良いな!」

「ぎ…御意」

不気味なまでに腹黒い笑みを浮かべる主人に背筋を凍らせながらも、男は忠実なる返答をし、部屋から出ていき命に従うのであった。

更新日:2018-03-16 09:51:40

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