• 125 / 128 ページ

おまけ7:再教育

「そなた、首領としての自覚はあるのか?」

「……」

シロフは淡々と語る目の前の男から微かに視線を反らし、無言で俯いていた。


      *


――‘闇陽’

それはフェルティ国王家直属の暗殺部隊。
その能力は最強と謳われしアクリウム帝国直属暗殺組織‘黒水’、ルルゥーム国暗殺組織‘死流’に次いで実力が在ると言われている。

その‘闇陽’にはあるひとつのいわくつきの噂――闇陽三人衆についての、があった。
現在の三人衆は首領であるシロフ、百の顔を持つファサド、そして賢者の名を持つヤヤードであった。

だがシロフとファサドは組織の皆がその存在を見知ってはいるが、何故かヤヤードに関しては誰一人、その姿を見たことが無いと言われ、仲間内では『姿なしのヤヤード』『亡霊のヤヤード』とも噂されている人物であった。


      *


――さて‘闇陽’の現首領であるシロフが今、主人たるアルザスではなく同じ暗殺者の格好をした小柄な男の前で項垂れている。

「再度問う、そなたは‘闇陽’の首領たる自覚はあるのか?」

頭の先から爪先まで黒の衣で覆われた小柄の男は、唯一露になっている黒、いや深蒼の瞳でシロフを睨み付けた。

「…わたくしの力の及ぶ限り尽力を行ってきた…」

「尽力だと、笑わせる。ならば先の二度に渡る失態はどう説明するのだ?」

「……」

痛いところを突かれ、シロフは流石に返す言葉も無く口を閉ざしてしまった。

「我が知る‘闇陽’は任務を怠る事など有り得なかった。なのにここ最近の‘闇陽’はどうだ。組織の失態で我が主人や護衛すべき者を危険に曝してきたではないか。
これも首領たるそなたの力不足故に起きし事。そなたは首領たるに値せぬわ」

男の静かだが厳しい言葉にシロフは恐怖を感じ、身体じゅうから冷や汗を流した。

“配下の者からヤースティという謎の人物の名前を聞いた時はまさかと思っていたが…”

久々に恐怖に囚われているシロフは男と視線を合わせられず、ただただ黙って俯くことしか出来ない。

“確かに二度失態は起こしたが、結局事は旨くいったから、彼の御方が来るとは思いもしなかった…”

――三人衆のみが知るもうひとつの‘闇陽’の姿。
賢者ヤヤード、またの名を裁き手ヤースティとも言われ、組織の秩序が乱れし時にその姿を現し、制裁を加える役目を持ち、また‘闇陽’が創られし時より在籍するという、正に組織の『守護神』的存在。

今まさにその賢者ヤヤード、裁き手ヤースティがシロフに裁きを与えようとしていた。

“わたしはどうなるのだ?ヤヤード様に睨まれて生き延びた者は居ないと言われているが…”

真しやかか否か、言い伝えられてきたその逸話にシロフは囚われてしまい、己の運命を呪った。

“何を躊躇う。所詮わたしの生命などこの組織で尽きる運命。他の暗殺者に殺されようが彼の御方に殺されようが、どちらも変わらぬ…。
だが、願わくば…”

「シロフよ」

「は、はい!」

半ば諦めの気持ちでいた時、突然己の名を呼ばれ、シロフは少し間抜けな返事をして顔を上げた。
そこには先程のような厳しく硬い表情ではなく、何処か憂いを秘めた表情をしたヤースティの姿があった。

「……そなた、我等が主人(あるじ)をどう思う?」

「は?」

「今の我等が主人を、そなたはどう思っているのだ?」

「どう…って…」

“何を今更そのような事を尋ねるのだ?我等が‘闇陽’は主人たる者に絶対の服従を誓い、その命に従うのみ…”

「わ、我等が組織は主人に絶対なる忠誠を誓う…」

更新日:2019-01-14 07:22:59

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook