• 106 / 128 ページ

第12章―Ⅷ:見合いの真実

――話は数日前に遡る。

ジーフェスの屋敷に来ていたアルザスとフェンリルの二人は、屋敷の奥にある小さな客間に居た。
部屋には二人以外の姿は無く、部屋の周囲には姿こそ見えないが‘闇陽’数人とギアランが目を光らせていた。

「(お前が話の解る奴で良かったよ)」

傍にあったソファーに腰掛けながらフェンリルはほっと安堵の息を出しながら呟く。

「(勘違いするな。未だお前の話を受けるとは言ってないぞ)」

ローテーブルを挟んで反対側に座ったアルザスが淡々と否定する。

「(厳しいなあ…俺とお前との仲じゃないか)」

「(黙れ、わたしはお前とそういう仲になったつもりは無い、さっさと用件を話せ)」

取り繕う隙も無いアルザスの冷淡な態度に、フェンリルは苦笑いを浮かべ、肩を竦めた。

「(やれやれ…確かお前、ウィルス言語は話せたよな?)」

「[それが何だ?]」

いきなり目的の言葉に変えた男に、フェンリルはにやりと満足げに笑みを浮かべた。

「[話が早くて助かるよ]」

「[御託は良いからさっさと理由を話せ]」

全くもって妥協を赦さぬその態度に、だが安心したようにフェンリルは口を開いて下手くそなウィルス言語で語りだした。

「[ぶっちゃけ結論から言うと、お前にシャネリアを護って欲しいんだ]」

「[護る、何故だ?]」

話の内容に訝しげな表情を浮かべ、アルザスは完璧で綺麗なウィルス言語を語る。

「[ああ、シャネリアの奴、ある男にしつこく迫られていてな、で、そいつを退ける為に権威のある他国の王族…まあお前なんだけどな、と形だけ見合いと婚約をさせたいのさ]」

「[何だそれは?そんな事なら回りくどい事などせずに、直接その男に釘を差すなり追い払うなりすれば良かろうに]」

「[普通の男ならとっくにそうしてるさ。だが相手が悪過ぎるんだ]」

「[悪過ぎる?]」

「[ああ、シャネリアに迫っている男、カルルと言うんだが…そいつは昔から我が一族に仕える側近中の側近、ベッテン一族の子息なのさ]」

「[親は親、息子は息子だろうが、お前達の内輪の事情に、こんな実に馬鹿げた事の為にわたしを利用しようとしたのか?]」

いよいよ怒りに顔を歪ませ、目の前のフェンリルを睨み付けるアルザス。

「[俺も出来ればそいつを力ずくで排除したかったさ!だが親父があいつの親一族に絶対的な信頼を持つ以上、実権を持ってる以上俺には手出し出来なかったんだよ!]」

「[……]」

「[おまけに親父の奴、酔った勢いでシャネリアとあの馬鹿息子との婚姻誓約書に署名しやがったのさ!
あとシャネリアの署名さえ有れば、あの二人は強制的に夫婦になってしまう、それだけは絶対に避けたいんだ!
幸いその婚姻誓約書は期限があって、あと十日のうちにシャネリアが承認の印を押して長に…まあこの場合俺の親父さんだが、に提出しないと無効になるのさ]」

「[それでお前は妹を連れて此処まで逃げて来たのか]」

「[そういう事だ。というわけで力を貸してくれないか?十日間だけあいつをお前の保護下に、出来たら婚約者として置いといてくれんか?
勿論ただでとは言わないさ。我が国の特産シルファミンクの取引ではどうだ?]」

「[シルファミンク…]」

「[そうさ、エーカーやシエンタ大陸では既に取引してるけど、アーリア大陸ではこの国が初めての取引となる]」

「[だが温暖なこの大陸に毛皮の需要などほとんど無いぞ]」

アルザスの尤もな意見に、フェンリルはちっちっと舌打ちをする。

「[解ってないなあお前、毛皮なんてものは防寒だけじゃなくて、金持ちが持つ象徴のようなものさ。シルファミンクは他の毛皮よりも希少価値が高くてダリアナと同等の価値があるんだぜ]」

更新日:2018-11-08 14:01:19

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook