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OPENING

 雨がマンホールを中心に飛び散る膨大な血を流す。まるでこの街に暮らしていた人間の痕跡を流し切るかのように激しく……例え雨に打たれる少年には何も考えが浮かばないとしても。

「ねえねえ、これから僕は何処へ行けば良い?」

「闇だ。お前は闇の住人として一生を過ごすのだ。十字架操法の全てを学び、一生を光の住人達に尽くす為に闇を生き抜くのだ」

「出来るかな、僕に?」

「出来て貰わないと私がお前を生かす意味がない」

「だよね。本当は僕ってみんなと同じように存在しない人間だったんでしょ?」

「当り前の事を又、尋ねるのか? どれだけ尋ねようとも答えは同じだ。お前は闇の住人に依って記録から抹消される運命にあった」

「じゃあ何で僕を助けたの?」

「これで五回目だ、私門勇気(シモン ユウキ)」

「シモンで良いよ、おじさん」

「これも五回目だったな、シモン」

 少年の名はシモン……そのシモンと会話をするのは黒ずくめで白い髪とプロ格闘家が恐れ戦く筋肉が見え隠れする三十代から四十代の男。シモンじゃなくともその男が普通ではない事は会話から容易に察する。そんな男に如何してシモンは会話出来るのか?

「これから私は反逆者としてイエズス会に追われる。奴等は君も殺すだろう。そう成らない為にも私は君を強くする」

「強く成れるの? 僕にはその自信がない」

「やる前から諦めるか!」

「だって体育では何時もバスケもバレーも出来なかった。サッカーだって何時も同級生に馬鹿にされて来た!」

「何、日本では体育の授業はお粗末に教えられるのか!」

「え?」

「いや、話は脱線したな。兎に角、やる前から諦めるのは本当に出来ない奴の言う事だ。本当に出来る奴に才能なぞ関係ない!」

「で、でも才能があれば出来るだろう?」

「だから関係ないと断言する。私が必ず君を強くする!」

 白髪の男は右手を差し伸べた。シモンは涙を流し、それに応える。シモンは産まれて初めて自分の事を理解出来る者と出会った……

更新日:2017-10-16 07:53:40

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