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第十章 革命戦略
第二話 そろえ札-1
 王室が派遣してきた討伐軍を撃退してから、ドゥナではしばらく平和な日々が続いていた。インは相変わらず、施政向きのことは執事のカラギ・ツヒに任せたまま、再び、グーダ・タクンの賭場や女郎宿に出入りしていた。お館になる以前と同じく、ルコやコシと一緒であったが、違うところは、屈強な護衛役が二人ついている点であった。
 一人はマトであり、カコと一緒に残ることをインに申し出、以後、レトナ家で召し抱えられることになった。ただ、カコとマトは、「以前に挙げた大きな手柄と引き換えに、一族から暇をもらった」と、インには嘘をついていた。夜の遊びの際には、マトがつかず離れず、インに付いていた。
 もう一人は、スクイラ家が付けた用心棒で、バッグ・ルージンという二刀流の使い手であった。バッグ家はスクイラ家の傍流で、武芸を司る家系であった。その中でも、ルージンは、シュナ国東部一帯にその名が知れ渡っているほどの腕をもっていた。王室とスクイラ家の対立がなければ、王室主催の武道大会に出場し、確実に上位に進出していた男である。
 この日、インは恐ろしくツキまくっていた。賭けているうちに、持ち金は当初の賭け金の二十倍にまで膨れ上がっていた。
「さあ、軍資金も十分溜まったから、これから飲んで買うか!」
 ご機嫌な顔で、インは金を懐に入れ始めた。
「これだけあれば、ウッガムの店で遊べるぜ! あそこは、彫りの深い上玉の女が一杯いる!」
 舌舐めずりをしながら、コシが喜んだ。
 マトとルージンは、苦笑いするしかなかった。二人とも用心棒としての自覚が強く、いくらインが誘っても、女郎宿でインたちが遊んでいる間は、宿の表と裏で寝ずの番をしていた。
 そのとき、インに、一人の渡世人風の男が近寄ってきた。マトとルージンが反射的に、その男とインとの間に立った。ただ、身なりは渡世人風であっても、男の顔立ちは知的で品があった。
「あっ、いや、こちらの方と一度タメで勝負してみたいと思って……」
 突然、屈強で目付の違う二人の男が前に立ったので、男は狼狽しながら説明した。
「ふ~ん……そろえ札でいい?」
 インは二人の間から覗き込みながら、その渡世人風の男に尋ねた。
「ええ。どうですか?」
「よっしゃ! 初めて見る顔だけど、面白そうだ! 親分、机借りるね!」
 インは、グーダの方を振り返った。
「ヘッへ、こりぁいいや! 俺も楽しませてもらうぜ!」
 グーダは、笑いながら応じた。しかし、コシとルコは、獲得した大金を持って、さっさと女郎宿にいきたいので不満顔であった。
 しかし、そんな二人にはお構いなくインはイスに座り、男も対面のイスに腰掛けた。インは、気合を入れるように腕まくりをした。いつものように、二の腕からは奴隷の出を示す刺青が覗き、男の目にもそれは入っていた。
すぐに、ミソワ・ジュウが、札をもってきた。薬使いのジャガル・キ・スーンに、命を救われた男である。ジュウは札をよく切って、二人に三枚ずつ絵柄の書かれている札を裏のまま配り、残りは二人の間に山にした。
「いくら賭ける?」
 インが、尋ねた。
「三百あります。これでどうですか?」
 懐から大きな銭袋を出しながら、男が答えた。周囲がざわついた。
「一度に?」
「ええ」
 男が、挑発的に「ニヤリ」と笑った。その笑いを見て、インの目付が厳しくなった。
「……ふ~ん、こっちもそれぐらいあるから、それでいくか」
 インも、銭袋を伏せてある札の横に「ドン」と置いた。賭場は、静まり返った。

更新日:2018-06-04 16:18:16

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クラムの物語 -カース・イン- 第一巻 革命立国