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第九章 戦士たち
第五話 剣豪と少女-4
 全神経を集中させ相対するブルームにも分からないぐらい、サーナンの少しばかり開いた口の隙間から僅かに息が漏れた。次の瞬間、サーナンの剣が、ブルームから見て右側にほんの少し傾いた。
 この動きに気付いたのは、この会場で、ブルーム以外には、アキンしかいなかった。
(いかん、ブルーム!)
 アキンが心中で叫んだ瞬間、ブルームは、サーナンの剣が傾いた方、すなわち右側に跳んだ。「バシッ!」と音を立てて、ブルームの剣を、サーナンの剣が払った。ブルームの体は、サーナンの左側に出た。すると、ブルームの五感から、サーナンの気配が一切消え失せた。
(!?)
 その瞬間、ブルームの腰に太い蛇が絡みつく感覚が走った。
「キャッ!」
 ブルームの全身に悪寒が走り、鳥肌が立った。すると、「フワッ」とブルームの体が宙に浮いた。気がつくと、ブルームは、サーナンの太い左腕に持ち上げられていた。
(? ? ?)
 サーナンは、そのままブルームの体を左の肩に乗せた。ブルームは仰向けになった状態で、サーナンの肩に担がれてしまった。
 会場にいるほとんどの人間にとって、この動きは、すべて一瞬であった。ブルームが動いたと思った、まさに次の瞬間、サーナンがブルームを担ぎ上げていたのであった。
 サーナンは右手に握った剣を放り投げると、その掌で、ブルームのお尻を「パシ!パシ!」と二回叩いた。ブルームは、最早、茫然自失状態であり、相手のなすがままであった。
 緊張の糸が一気に切れて、会場は爆笑の渦になっていた。国王も、カップから麦酒がこぼれるのも気にせず、腹を抱えて笑いだした。娘の身を案じていたアキンは、その場にへたり込んでしまった。
 サーナンは、これも唖然としている審判の方を向くと、「ニヤリ」と笑った。審判は「ハッ」と気づくと、サーナンの方に手を挙げた。
 会場中が再び湧きかえり、万雷の拍手に包まれた。

 デズルの前にひざまずいているサーナンに、侍従から賞状と賞金の入った大きな袋が授けられた。
「素晴らしかったぞ。そなたを近衛部隊に是非とも迎え入れたい」
 デズルが満足げに、サーナンに話しかけた。サーナンは、深く頭を下げた。
「まったくもって、もったいない仰せですが、それがしは、当面、いずれの王室にも仕官するつもりはございません。まだ修行中の身ゆえ、いましばらく諸国を旅して回ろうと思います」
「何、すると、仕官するつもりはなく出場したのか?」
「申し訳ありません。それがしは、少しでも強き者と出会うことを、常に考えております」
「ふ~ん。変わった男よ。まぁ、よい。面白いものを見せてもらった、余は満足しておる。また、気が向いたら、当家を訪ねてきてくれ。そなたなら、いつでも召し抱えてつかわす」
 これが他の統治者であったら、もっと積極的に、サーナンを口説いていたところであった。しかし、デズルには、あらゆる面で、国を強くしようとする気概はなかった。
「ありがとうございます」
 サーナンは、無表情のまま頭を深く下げた。

更新日:2018-05-30 17:21:11

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