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第九章 戦士たち
第一話 武道大会
インを擁するレトナ家とスクイラ家の連合軍が、シュナ国王室に対して叛旗を翻してから、数十日が経過していた。この間、王室から、改めてレトナ家討伐のためにシュナ国正規軍が一度派遣され、レトナ家の本領であるドゥナとの境界地帯で、レトナ・スクイラ連合軍と戦った。兵力はシュナ国正規軍七百に対して連合軍四百であったが、正規軍は敗退した。カラギ・ツヒの巧妙な指揮もあったが、シュナ国正規軍の士気の低さも影響していた。
それ以後、王室、レトナ側いずれとも、何らの動きもないまま、日数が過ぎていった。すっかり雪に覆われたガクリルム山脈を遠くに臨みながら、シュナ城では、毎年恒例の王室主催の武道大会が開催されていた。一年でもっとも寒い時期ではあるが、平野部での寒さは厳しくはなく、武道大会にはちょうどよい季節であった。
国王シュナ・デズル二世は、退屈そうな表情で、目の前で展開される試合を眺めていた。この武道大会は、基本的には王室に仕える戦士たちが腕を競う場ではあったが、奴隷の身分でさえなければ、誰でも出場することができた。すなわち、軍人の練成のためだけでなく、新たな人材を発掘するという目的も備えており、仕官を目指して国内はもとより周辺諸国からも、腕に覚えのある猛者たちが集っていた。
「ふぁ~あ……」
デズル二世が、大きくアクビをした。武道大会を創始したのは、今は亡き彼の父であるが、文武のいずれにも関心のない彼にとっては、退屈な催し物でしかなかった。
「西部軍を呼び戻し、レトナとスクイラを討たせます……」
国王の横で同じく試合を眺めている宰相コルシ・バスルが、昨日開かれた、レトナ・スクイラに対する対策会議の続きを、思いついたように始めた。
「スワク・ウローグをか? 鉱山の叛乱は鎮圧できたのか?」
左テーブル上に置かれた皿から煎り豆を取り出し、国王は口に放り込んだ。「ボリボリ」と怠惰な音が響く。
「まだです。まだですが、あちらよりレトナの方が問題です。鉱山奴隷どもの叛乱は、レトナの後でも十分でしょう」
試合で一本が決まり、周囲から拍手が沸いた。試合は、双方が防具に身を固め、樹木の皮を集めて作った武器で戦う。武器は様々な長さの剣を模したもの、槍状のものと多様であり、出場者は好きな得物で勝負することが認められていた。
「うん、ならそれでよい。いずれにしても、早く鎮圧して、余の前にレトナ・インの首を持ってこさせろ。解放されたのか何だか知らぬが、インも奴隷なのであろう? 本当に、やっかいな奴隷どもよ……ん? なんだあれは?」
一段高くなっている試合場に、女らしき者が防具姿で上がった。
「ああ、あれは、王室指南役のへブラ・アキンの娘です。確か……ブルームでしたな」
「娘? いくつだ?」
「はぁ、今年で十一になるかと……」
「なんで、そんな小娘が出てくる? 危ないではないか!」
王は背もたれから身を起して、珍しく試合場を注視した。
「それが、指南役も承知の上です。あれでいてかなり腕が立つらしく、先ほど出てきた兄たちも勝てないとか……」
言っている宰相自身も、半信半疑であった。
インを擁するレトナ家とスクイラ家の連合軍が、シュナ国王室に対して叛旗を翻してから、数十日が経過していた。この間、王室から、改めてレトナ家討伐のためにシュナ国正規軍が一度派遣され、レトナ家の本領であるドゥナとの境界地帯で、レトナ・スクイラ連合軍と戦った。兵力はシュナ国正規軍七百に対して連合軍四百であったが、正規軍は敗退した。カラギ・ツヒの巧妙な指揮もあったが、シュナ国正規軍の士気の低さも影響していた。
それ以後、王室、レトナ側いずれとも、何らの動きもないまま、日数が過ぎていった。すっかり雪に覆われたガクリルム山脈を遠くに臨みながら、シュナ城では、毎年恒例の王室主催の武道大会が開催されていた。一年でもっとも寒い時期ではあるが、平野部での寒さは厳しくはなく、武道大会にはちょうどよい季節であった。
国王シュナ・デズル二世は、退屈そうな表情で、目の前で展開される試合を眺めていた。この武道大会は、基本的には王室に仕える戦士たちが腕を競う場ではあったが、奴隷の身分でさえなければ、誰でも出場することができた。すなわち、軍人の練成のためだけでなく、新たな人材を発掘するという目的も備えており、仕官を目指して国内はもとより周辺諸国からも、腕に覚えのある猛者たちが集っていた。
「ふぁ~あ……」
デズル二世が、大きくアクビをした。武道大会を創始したのは、今は亡き彼の父であるが、文武のいずれにも関心のない彼にとっては、退屈な催し物でしかなかった。
「西部軍を呼び戻し、レトナとスクイラを討たせます……」
国王の横で同じく試合を眺めている宰相コルシ・バスルが、昨日開かれた、レトナ・スクイラに対する対策会議の続きを、思いついたように始めた。
「スワク・ウローグをか? 鉱山の叛乱は鎮圧できたのか?」
左テーブル上に置かれた皿から煎り豆を取り出し、国王は口に放り込んだ。「ボリボリ」と怠惰な音が響く。
「まだです。まだですが、あちらよりレトナの方が問題です。鉱山奴隷どもの叛乱は、レトナの後でも十分でしょう」
試合で一本が決まり、周囲から拍手が沸いた。試合は、双方が防具に身を固め、樹木の皮を集めて作った武器で戦う。武器は様々な長さの剣を模したもの、槍状のものと多様であり、出場者は好きな得物で勝負することが認められていた。
「うん、ならそれでよい。いずれにしても、早く鎮圧して、余の前にレトナ・インの首を持ってこさせろ。解放されたのか何だか知らぬが、インも奴隷なのであろう? 本当に、やっかいな奴隷どもよ……ん? なんだあれは?」
一段高くなっている試合場に、女らしき者が防具姿で上がった。
「ああ、あれは、王室指南役のへブラ・アキンの娘です。確か……ブルームでしたな」
「娘? いくつだ?」
「はぁ、今年で十一になるかと……」
「なんで、そんな小娘が出てくる? 危ないではないか!」
王は背もたれから身を起して、珍しく試合場を注視した。
「それが、指南役も承知の上です。あれでいてかなり腕が立つらしく、先ほど出てきた兄たちも勝てないとか……」
言っている宰相自身も、半信半疑であった。
更新日:2018-05-05 17:17:38