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第五章 沼の森の戦い

第五章 沼の森の戦い


第一話 カコとマト
 レトナ家の本拠地であるドゥナに帰るや、カラギ・ツヒは、スクイラ家をはじめとする周辺の諸豪族に対して徴兵の差配に取りかかった。ただ、インは相変わらず、執事に任せっきりのお館さんを決め込み、昼間から屋敷の奥でシンの体を貪っていた。
 冬の日が暮れ、夕餉の時間になった。ぐったりと寝台に横たわるシンを後に、インは、炊事場に出た。炊事場では、二人の家の子が忙しく夕餉の支度をしていた。元々は、インの職場の先輩たちである。
「長屋の方に、シュナゴールから連れてきたマトとカコがいるから、大座敷に来るように伝えて。それから、ツヒさんにも。夕餉は、五人分頼む。全部、大座敷に」
 家の子たちは、笑顔で「へい」と頷いた。「お館さん」になったものの、インは偉ぶることはなく、それまでと同じように周囲と接していたため、皆から反発されることはなかった。家の子はおろか奴隷の気持ちが分かっていただけに、かえって、その取り扱いに情けが入っていて、周囲からは親しみを持たれていた。

更新日:2018-01-23 08:33:37

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クラムの物語 -カース・イン- 第一巻 革命立国