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…その船は、実に特徴的な形状をしていた。
船首がまるで「蹄」のような形状をしており、まるで伸ばした
「馬の脚」の様であった。
また、その装甲は白く、先の戦争で活躍した「木馬」と呼ばれる
連邦軍の艦に酷似していた。
…その艦の名前は、「フーヴ」(※「HOOF」)と呼ばれ、ルクトと
フィーグは、そこに着艦した。
「おぉ、ルクト!どうだった?今度の訓練は…?」
着艦したジムのコックピットから若い男性パイロットが流れて
きた。
背丈のある、わりと顔立ちのいい青年で、後ろに流した
髪の毛が、どこかワイルドさを感じさせる。
また、一見すればエリートパイロットの様にも思えた。
そんなルクトに対し、整備担当の老齢の男性が声をかけて
きた。
彼は灰色の軍服を着込み、はだけた襟元に手ぬぐいをかけた
出で立ちであった。
また、やや禿げ上がった頭部が、その年齢を感じさせる。
彼はこの艦の整備長を務める、ヨサン・ウォルトであった。
「まあまあですかね…ま、フィーグなら随分と慣れてきたん
じゃないですか?」
彼の後を追う様に、ガンダムのパイロット…フィーグが姿を
みせた。
黒髪のこざっぱりな頭髪をした、どこか生真面目そうな青年で
あった。
「おっ、新人パイロットのご帰還か…ん?…なんかちょっと
お疲れ気味の様じゃのう?」
ヨサンの言う通り、フィーグの顔は何処か疲れ果てていた。
…無理もない。
実はこのところ、連日モビルスーツの操縦の訓練が続いて
いたためだ。
「フィーグ!どうじゃ、調子は?」
ヨサンが問いかけるも、フィーグの顔は少し青ざめていた。
…ちょっと宇宙酔いしたか?
彼の喉に、何かが込み上げてくる。
「すみません整備長…うぅっ…」
彼は慌ててデッキの方に流れていった。
「ルクト。…お前、どんな訓練をしたんじゃ??」
ヨサンが不思議そうにルクトに尋ねた。
「どんなって…いつもの通り、普通の訓練ですけど…?」
ルクトも意外そうな顔をする。
新人のパイロットなら、こんなことは日常茶飯事だが…
フィーグの場合、それがかなり堪えたらしい。
もっとも訓練とはいえ、その教官によっては程度も違うの
だが…?
「…」
カタパルトへの通路の傍にあるトイレで、フィーグはふと鏡を
みつめた。
…そこに自分の顔があるが…どこか顔色が悪かった。
さっき吐いたわけではなかったが、気分は悪く、加えて頭痛も
する。
「…まただ…この感じ…」
実は訓練の途中、フィーグは不思議な感覚に見舞われた。
彼の意識の中に…何度か誰かが呼びかけてきたような気がした
のだ。
あれは幻聴だったのだろうか…。
それは…女性の声であった。
何やら自分に助けを求めるようなその声…それに、どこか
悲しげだった。
そういえば慣れない宇宙に上がってから随分になる。
かの残骸処理業者で働いていた時は、こんなことはなかった
はず…と、いいたいところではあるが、似たようなことが
あったかもしれない。
…ときに宇宙では、いろいろなことがある。
それは口では言い表せないような…不可解な出来事も起こり
得る。
そして…。
自分はいま、そんな出来事に遭遇している…。
フィーグはもう一度、鏡に映った自分の顔をみやった…。
更新日:2017-10-12 14:50:05