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 フィーグが案内されたのは、艦の中の一室だった。
 …その部屋の中は、何か特別な作りをしている。
 どうやらここは、艦長室らしかった。

  「それじゃ、またあとでね…」

 彼をそこに案内すると、その若い女性…リィナ・シュラモン
 は、その場を後にした。

  「さて、初めまして…というべきかな?」

 目の前のデスクに、年配の男性が座っている。
 彼の問いに、フィーグは無言のままだった。
 本来なら挨拶の一つも交わすべきなのだろうが…あまりに
 突然の状況のため、彼も言葉が出ない。
 その男性は、丁寧にまとめられた髪の毛の中に白髪が混じり、
 その年齢を感じさせるが、痩せ型の身体ながら、どこか貫録と
 いうものが伺えた。
 おそらくは、この船の艦長であろう。

  「私の名はアドル・トリスナーダ。この戦艦『フーヴ』の
  艦長をしている」

 彼が着ているのは連邦軍の軍服だ。
 …ということは…。

  「…連邦軍の…方ですか…?」

 フィーグはおそるおそる尋ねた。
 …だが、アドルは彼の問いにすぐには答えなかった。
 ただ、先に出会った連邦軍の軍人に比べ、アドルは随分と
 温和そうな人間にみえた。

  「君の名前は?」
  「あ…フィーグ…フィーグ・ロワイトといいます…」

 フィーグは自分の名前を名乗った。
 アドルは微笑を浮かべ頷いた。

  「ではフィーグ。突然だが…君には礼を言わなければ
  ならない」
  「礼…?」

 …なんのことだろう?
 フィーグには心当たりがない。

  「あの機体…『R191』を、ここまで運んでくれたことだ」

 「R191」…。
 そうか、あの機体!…ガンダムのことを知っているという
 ことは…彼らが、あの機体の所有者ということか?

  「それじゃ、あの機体は…あなたたちの…?」

 フィーグの言葉にアドルが頷く。

  「あまり詳しくは説明できないが…あの機体は以前、
  盗まれてしまってね…我々も探していたんだ」

 …盗まれた?
 誰かに奪われたというのだろうか?
 しかしそれが堂々と、ジオンの「ア・バオア・クー」に置かれて
 いたとは…。
 だとしたら、このガンダムはジオンに奪われたということ
 なのだろうか?

  「とにかく…」

 アドルはフィーグの疑問に詳しくは触れず、その目を細め話を
 進めた。

  「…フィーグ。先に我々の仲間が君を誘ったらしいが…
  どうかな、このまま我々の仲間にならないか?ついては、
  君にはモビルスーツのパイロットを任せたいと思っているの
  だが…?」
  「そんな…突然そんなこと言われても…俺には…!」

 フィーグが驚き戸惑うのも無理はないだろう。
 なぜなら…アドルたちが何者なのかも、まだ彼は知らない。
 …ただ、偶然であっても、フィーグはあのザク…正確には
 高機動タイプのそれを二機も撃破している。
 そのことについては、既にアドルのもとに伝えられていた。

  「あなたたちは…その、連邦軍なんでしょう?それに
  突然仲間になれだの、モビルスーツのパイロットになれだの
  …急に言われたって…」

 困惑するフィーグを、アドルはしばらくみつめていた。
 …どこか誰かに似ている…そんな眼差しだった。

  「実は我々は…『平和の再生』(※「PeaceRevive」)というもの
  を願い、独自に活動を展開している。…いわば、私設の軍隊
  ともいえるが…なにも連邦軍とは全く関わりがないわけでは
  ない」

 …その言葉の語尾に、なにやら力が込められていた。
 ならば、彼らは連邦軍で特別に編成された部隊が何かで
 あろうか?
 フィーグは直感的にそう思わずにはいられなかった。
 だが…。
 先にリィナたちは、同じ連邦軍のモビルスーツと対峙して
 いる。
 それを思い出した時、フィーグには何か妙に引っかかるものが
 あった。

  「…だったらなぜ連邦軍同士で戦う必要があるんですか?
  あなたたちは…今度は味方同士で戦争を始める気なんです
  か!?」

 アドルの眉根が動く。
 そして…彼は何かを言いかけた…と、そのとき!

  「…それは違うぞ、若僧!」
  「えっ?」

 その話に聞き耳を立てていたかのように、艦長室に一人の
 老齢の男性が入ってきた。
 半ば禿げ上がった頭に、アドルと同じ軍服を着ているが、
 その襟元ははだけ、首には手ぬぐいのようなものをかけて
 いた。

更新日:2017-10-23 14:15:50

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機動戦士ガンダムR191 第二編/「黄昏のコロニー」