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旅
『この世界は……もうすぐ終わってしまうのでしょうか』
ラジオからそんな悲しげな声が聞こえた。それを否定する人なんて誰もいない。ただ今更気にしている人だっていないと思っていたけど、そうでもないようだった。
数年前から始まった戦争は世界に大恐慌をもたらした。何発もの核兵器によって世界中の電気機器は壊滅的なダメージを受け、各地には死の華が咲き、文明は退化した。それでもなお戦争は終わらなかった。死滅した世界からとり残された"安息の地"を賭けて、今日も火種は地平線まで続いていく。
私はラジオを消してカバンに入れた。
「本当に行くのね?」
叔母さんは悲しそうな目をしていた。
「うん。いつ汽車が使えなくなるかわからないもの」
「……そう。気をつけなさいね」
叔母さんは後ろ手にしていた弁当を渡してくれた。
「残さず食べるのよ」
弁当を受け取ろうとした手を、両手で優しく握られた。シワが刻まれて痩せこけた手は、それでも暖かかった。
「……うん。ありがとう。いってきます」
自然と笑顔になった。どんな顔をして家を出たらいいか分からないと悩んでいた数分前の私を元気付けてあげたかった。
そして私は生まれ育った家をあとにした。
永遠に戻ってこないということは、私も、叔母さんも分かっていた。
ラジオからそんな悲しげな声が聞こえた。それを否定する人なんて誰もいない。ただ今更気にしている人だっていないと思っていたけど、そうでもないようだった。
数年前から始まった戦争は世界に大恐慌をもたらした。何発もの核兵器によって世界中の電気機器は壊滅的なダメージを受け、各地には死の華が咲き、文明は退化した。それでもなお戦争は終わらなかった。死滅した世界からとり残された"安息の地"を賭けて、今日も火種は地平線まで続いていく。
私はラジオを消してカバンに入れた。
「本当に行くのね?」
叔母さんは悲しそうな目をしていた。
「うん。いつ汽車が使えなくなるかわからないもの」
「……そう。気をつけなさいね」
叔母さんは後ろ手にしていた弁当を渡してくれた。
「残さず食べるのよ」
弁当を受け取ろうとした手を、両手で優しく握られた。シワが刻まれて痩せこけた手は、それでも暖かかった。
「……うん。ありがとう。いってきます」
自然と笑顔になった。どんな顔をして家を出たらいいか分からないと悩んでいた数分前の私を元気付けてあげたかった。
そして私は生まれ育った家をあとにした。
永遠に戻ってこないということは、私も、叔母さんも分かっていた。
更新日:2017-07-18 17:30:28