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私のライオン

 島の中央に広がるジャングルを要が歩いている。
 サロクマの爆発魔法で受けたダメージは殆どなかったが、魔力の消耗が激しく、あのまま戦い続けるのは賢くないと判断した。
(この私がゴキブリ相手に退くことになるとはな…)
 土砂降りの雨は上がり、ジメジメとした湿気が肌にまとわりついてくる。それでも彼女の毅然とした表情と堂々たる歩みには一点の陰りもない。
「この屈辱は百倍にして返してやるぞ…」
 ぴちゃぴちゃ。
 要はつと足を止めた。
 ぴちゃくちゃ。
 奇妙な音。何かをすするような、租借するような…。
(魔力の気配はないが…何かいる)
 ぺちゃくちゃもぐ。
「獣か?」
 要は音のする方に足を向けた。
 しばらく歩いていくと、前方に一人の少女が立っている。
「獣ではなくゴキブリだったか」
 少女は口の中で何かを食べているようだった。栗色のショートカットだが、前髪が目を覆い隠すほど長い。身につけているのは料理人が着るような白衣である。
「この甘美な魔力の源はあなたでしたか?」
 少女…クッキング魔法少女・棚橋心は口元を拭いながら微笑んだ。
「ふふ。私の魔力を感じ取っていたか。押さえ込んでいたつもりだったがな」
「感じ取っていたのではないです。食べていたのです」
 半開きになった心の口から涎がたれる。
「あなたの魔力…今まで食べてきたどの魔法少女のものよりも美味しいです。宝石で例えるならダイヤモンド。相撲で例えるなら横綱。おすしで例えるなら大トロです」
「下らん戯言を」
 要は黄金色の魔力を開放した。
 心の髪の毛に隠された目が大きく見開かれる。
「あ、あああ! 美味しい! 美味し過ぎますぅ!」
 心はうっとりとしてその場に立ち尽くした。
「痴れ者がっ! 私の前に跪けっ!」
 要の魔法によって心はその場に跪いた。
 ばくばくばく。
 ごくごくごく。
 くちゃくちゃくちゃ。
 心は跪いたまま口を動かし続ける。
(こいつ…私の魔力を食べている?)
 ほとんどゼロに近かった心の魔力がどんどん上がっていく。
「貴様!」
 要は具現化したレイピアで心に切りつけた。
 しかし。
 がぶっ。
 心がレイピアに噛み付いた。
 そしてバリバリとレイピアを食べていく。
「あなたの魔法美味しいですねぇ」
 要はバックステップで距離をとった。
「魔法を食らうゴキブリか」
 私の前に跪け。魔力で具現化したレイピア。どちらの魔法も「食われて」消えてしまったのである。
 心はゆっくりと立ち上がった。
「もっと食べたいなぁ。あなたの魔力…」
 口からボタボタと涎をたらしながら心が要に歩み寄る。

更新日:2017-10-13 17:56:01

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