• 7 / 13 ページ

にじむ世界

ぼんやりと信号がかすむ。

雨上がりの湿気を含んだ空気の匂いが、ふわりと鼻孔をかすめる。


「夜のせい、かな?」


人通りの少ない住宅街の静かな道を横切りながら、思う。


この街は不思議な場所だ。


めまぐるしく変化、いや、進化し続け、向上心に満ちたエネルギーに満ちているというのに。

ほんの少し郊外に外れると、のーんびりと時間が過ぎる。


広い庭、緑の芝生。ゆったりと寝そべる大型犬。

まるで映画の中にいるような錯覚に陥る。


ほっとするひとときでもあり。

忘れていた寂しさが舞い降りてくるときでもあり。


「今、何してるかな・・・?」


ふと気が付くと、スマホを取り出している。


「あー。これがダメなんだよね。たぶん。」


今までも一般的な若者と同じ程度にはスマホ依存症だったと思う。

特に仕事をしていた時は、ブログをチェックしたり、スケジュールを管理したり、

必要に迫られて、な部分もあったと思う。


今、は。


ごくごく親しい友人としかやりとりしないから、積極的にぴろぴろとスマホが呼ぶわけもないのに、気が付けば取り出して眺めている。


この先に。


大ちゃんがいると感じられるから。


大好きなそら。

ずっとずっと遠くまでたどってゆくと、必ず世界繋がっている。


あまり頻繁に連絡を取るのも迷惑になるかもしれない。

本当は毎日でも電話して、メールして、声が聴きたくて、顔が見たかったけど、我慢して、そらを見上げた。

つんと鼻をつく切なさは、慣れない空気が悪さをするせいだと自分に言い聞かせた。


でもね。


無理に我慢して、涙をこらえるよりも。

素直に好き。って伝えたほうが大ちゃんが喜んでくれることに気がついたんだ。


地球の不思議は、同じそらの下で同じ時間を過ごしているのに、ひるとよるにぼくたちを引き離す。

素直に伝えたくても、この不思議に邪魔されて、いつでも自由なときに、好きなだけ。というわけにはいかない。


だから、お互いに起きているわずかな時間がぎゅぎゅぎゅーっと濃密に大切な時間になる。


<ねえ?大ちゃん、起きてた>

<おう。今、風呂はいったとこ>


<そうなんだ。今日はどうだった?>

<どうって、稽古すればするほど、自分の未熟さに気がつく毎日だよ~>

<あはは、昨日もそんなこと言ってたよね>

<・・・。進歩ないな~>


他愛のない会話にほっとする。

大ちゃんは進歩がない、と言うけれど、ぼくの想像できる範囲の世界に住んでいてくれることに安心する。

画像も音質も悪い動画からでも、大ちゃんの成長は明らかなのに、別れたときのまんま、

「未熟に気がつく毎日だよ~」と弱音を吐いてくれる。


<ねえ、大ちゃん。僕たち同じスピードで成長できてるってことだよね?>

<どういう意味だ?>

<だってさ。片方がじーっと立ち止まってて、周りだけがどんどん成長してたら動いてるのがわかるじゃない?川の流れと一緒でさ。猛スピードで流れる川と同じ速度で自分も走ってるから、変化もないように思えるんだよ。>


毎日、必死で走り続ける。

それでも、同じところにとどまっているように感じる。

それは、まるっとまるごと、成長しているからだ。


<じゃあね、おやすみ>


暗くなった画面にちゅ。と口づけする。


「今日は声が聞けて良かった。」


少し、画面を眺めてしまう時間が減るかもしれない。


「こっちのコンタクトってちょっと合わないんだよね・・・。」


次に帰国できる日まで、これ以上視力が落ちないようにしないと。



ぼんやりとにじむ信号が青に変わったのを合図に、現実に戻るのだった。



更新日:2017-08-20 14:35:12

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

それでも、大まおが一番!その3(2017)