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【視点:カリナ・エバンネ】



 いじめられたりはしないか、ちゃんと友達が出来るのか。カリナはそれが心配だった。

 目の前で楽しげにおしゃべりをしている相手が今何を考えているのかと思うと、不安になったり怖くなったりするから、本当は人と話すことは苦手だ。だけどそれ以上に一人は嫌だった。全く、困った性格してるよ、ほんと。

「だーいじょーぶよー!あんたがちゃんと笑ってたら勝手に寄ってくるわよ、きっと。特に男の子が」

 いや、少なくとも最後のワードはご遠慮願いたい。

 相変わらず内心では憂鬱な雨がザーザーと降りしきっているカリナとは対照的に、フフフとエプロンを外しながらママは少女のような眩しいくらいに明るくて人懐っこい笑みをカリナに向けた。何で親子なのにこんなに違うんだろう?

 愛想が良くて誰に対しても明るく振る舞うママは、引っ越してきたその日のうちにまるで昔から住んでいたかのように日本という土地柄に馴染み、ご近所さんたちとも簡単に仲良くなった。対してカリナは未だに生来の人見知りが足を引っ張り、道で出会った人の良さそうなおばさんたちが声をかけてきても、慌ててママの背中に隠れてしまう始末で、全く馴染めずにいた。
引っ越してきてもうしばらく経つけど、時々アメリカの空気が恋しくなることもあるくらいだ。

 それに、これはカリナの自業自得と言うものなのだけれど、外に出ることが怖かったカリナは半引きこもりの状態だったから土地勘と言うものが全くない。

今日の行きはママが付き添ってくれるから安心だけど、下校時間はちょうど仕事と重なって迎えに来れない。

 おかげで初日から迷子になってしまいそうで、それも懸念の一つとなっている。

 カリナは諦めたように小さく溜め息を吐くと、スクランブルエッグを一口だけ味わってから席を立った。

「こら、カリナ」

 仁王立ちしたママが怒ったように声を上げるけど、もう本当に無理だった。このままトイレに籠りたいくらいの気分だ。

「ごめん、ほんとにもう無理。ランドセル、取ってくるね」

 そう一言だけ告げると、カリナはノロノロとした足取りで自室へと階段を昇って行った。

 新しく用意された自分の部屋にだけはどうにか慣れて来たので、ドアノブを回して部屋に入ると、ほんの少しだけホッとする。それから入ってすぐの所に用意していた真新しい爽やかなライトブルーのランドセルを背負うと、出かける時にいつでも挨拶出来るようにと、ドアのすぐ隣に設置した衣装ダンスの上に置いてある写真立てを手に取った。

 中にはママとカリナ、そしてパパの三人が写っている。

 今よりもカリナがほんの少し小さくて、まだ何も知らなかった頃に撮ったものだ。

「行ってくるね、パパ」

 引き攣った笑みで写真の中のパパに笑いかけながらそう告げると、カリナは後ろ髪を引かれる思いで部屋を出て行った。



 ほんのちょっとでいいから、私にパパの勇気をください。

更新日:2018-05-27 18:50:01

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