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【視点:シカル・ロス】



 見た目はまだまだ家に居たとしても一人にさせるには心許ないくらいに幼過ぎるというのに、男勝りともとれる大人びた口調、バンパイアに対する知識や他人の意図や周囲の状況を即座に判断するといった明晰な頭脳、そして夜の闇に臆することなくたった一人で森を徘徊するような普通は考えられないような行動力を可能とさせる運動能力。どれをとっても年齢と能力が割に合っていない。確かに、バンパイアを救うなど幼さゆえの軽率な行動、安易な考えともとれるのだが、それを足したとしても評価に値するには十分すぎるくらいだろう。それに先程の『源晶石』に対する過剰な反応も気になるところだ。俺を助けたのも初めはやんちゃが少々行き過ぎた子供の気まぐれ程度の認識だったが、俺に止めを刺そうと夜な夜な舞い戻ってきたこと、そして結局のところ自らの腕を躊躇なく斬りつけ、その血を飲ませるといった行為を平然とやってのける辺りでリンという少女の規格外さを察するべきだった。まぁ、あの時は死にかけでそんなことに気を回す余裕もなかったし、ついさっきこいつに会うまでもWCDを警戒しながらも、服及び血(しょくりょう)などの身の回りの必要最低限のものを得るので必死だったからそこまで頭が回らなかったというのもあるが。

 最終的な結果としては、覚束ない足取りを見るに見かねた俺が問答無用で行き同じく部屋まで抱えていくことになったのだが。抱え上げた当初は「平気だから降ろして」などと強がりを言って見せていたのだが、どこから見ても大丈夫ではないので無視していると、どうやら体力の方も限界だったらしく、すぐにぐったりと俺に身を預けていた。本当に無理を押していたようだ。この幼い少女の何がここまでさせるのか。ふと少女の生い立ちが気になったが、所詮は人とバンパイア。一時の交錯以上の関係を持つとすれば、それは互いに敵対したときのみだ。そうと分かっていながら知る必要はあるまい。

 じゃりじゃりと俺の歩みに合わせて音を鳴らしている『源晶石』が大量に詰まった麻袋にふと意識をやる。俺が落ち延びた川が流れる森の中を散策中に発見し、これだけあればしばらくの間、路銀には困らないだろうと思い、人前に出るのも憚られるために何とか金銭に替える伝手はないだろうかと模索していたのだが、先の反応を見るに、これの元の所有者はリン(こいつ)らしい。もしくはその関係者か。どちらにしても、だとしたらなぜこんな金の塊とも言える源晶石手放すようなまねをしたのだろうか?それにリンが話していた爆発とは一体どういうことだ?確かに、源晶石はドームの作成や電気などのすべてのエネルギーの元だ。加工のしようによっては確かに小粒程度でも弱っていた俺なら吹き飛ばされても何ら不思議ではないが、色々引っかかるところがある。今俺の腰にぶら下がっている量だけでも一家庭に必要な電力全てをおよそ五年分は賄えるだろう。それだけのエネルギーを秘めた源晶石なのだが、自爆するなんて話は耳にしたことはないぞ?源晶石からエネルギーを取り出す過程は俺も知らない。だがそんな危険な代物だという話は耳にしたことがない。いや、まったくの危険がないからこそ、『神の恵み』なんぞといった大層な異名が付けられているんだ。別のものと勘違いしているのか?それとも……?

 俺の脳裏に、ある一族の名が過る。いや、考え過ぎだな。もうあの一族はWCDによって殲滅されたと聞いた。生き残りがいたとしてもそういった話はよくあることだから別に驚きはしないが、彼らがどんな能力(ちから)を持っていたのかなど知らないし興味もない。ただ、生きとし生ける者との共存共栄を唱えるWCDが同じ人族でありながらそのような残虐な行為に訴えるくらいなのだから相当厄介な存在だったのだろう。そんなものに関わるなんて勘弁してくれというものだ。ただでさえ状況は芳しくないというのにこれ以上面倒事を抱えたらさらに俺の進退が危うくなる。
 だとしてもどういうわけか、百云年以上生きてきた中で培われた俺の第六感が『お前はもう既に厄介事の渦中にあるぞ』と呆れかえっていたのだった。

更新日:2018-05-27 19:09:35

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