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~怒られました~

【視点:リン・ダン】



 バンパイアとの邂逅から二日後。市内一の規模を誇るダン総合病院の数ある一室から、元来、病める者を癒し、傷を負った者を治療する場には到底ふさわしくない、雷神ですら尻込みしそうな程の凄まじい怒声という名の雷が容赦なく降り注いだ。

「ったく、あんたって子は……!」

 怒りのあまりに声を詰まらせた、先ほどの怒鳴り声の主であるダン総合病院病院長であるタニーナ・ダンは目の前で正座をし、小柄な身を縮こまらせている幼い少女、ことわたしをこれでもかとばかりに睨みつけた。その様相は普段、軍隊で毎日のように強面で有名な教官に鍛えに鍛え上げられている屈強なWCDの兵士たちから見ても背筋が震えあがるほどだといえば、想像するに難くないだろう。かく言うその怒りの的であるわたしも、タニーナの怒号に泣き喚くことも震え上がることもなく、まるで学校の先生から悪戯の叱責を受けている程度の態度で構えていられるのだから、病院内の看護婦や医師たちの間では「さすがは院長の娘」とかなり肝が据わっていることで有名だそうだ。

「夜中に二階から飛び降りた挙句、一人で外をほっつき歩く馬鹿がどこにいるんだい!!」
「…………」

 「ここにいる」とでも言ってやろうかと思ったが、そうすればタニーナの怒りパロメーターがとんでもないことになりそうだからやめておこう。
 気分はブルー、体調も最悪、そして目の前には怒れる閻魔大王様(タニーナ)。あー、もう笑うしかないわ、この状況。まぁ、笑ったら笑ったでさらにやばいことになりそうなんだけども。

 現在時刻は大体正午くらい。カーテンの開け放たれた窓から差し込む日の光は、まるでわたしの現状をせせら笑っているかのように陽気な明るさがあった。
 わたしの腕には細いチューブが二本刺されていて、一本は透明、もう一本は赤銅色をしている。そしてもう一方の腕、つまり先日あのバンパイアに血を飲ませるために自分で傷つけた腕のほうは、それはたいそうな重症患者のように包帯でぐるぐる巻きにされており、きちんと手当されていた。ついでに言うと、バンパイアに痛めつけられた方のあざのところにも、でっかいシップが張られている。ミントとはまた違った鼻の奥をつく匂いが煩わしい。そして残りのチューブには血液が流れており、バンパイアに与えすぎたせいで足りなくなってしまった私の血を代わりに補っていた。
 タニーナ曰く、どうやらわたしは先日の出来事から丸一日以上爆睡していたらしい。いつの間に、どうやって病院に舞い戻ってきたのかは覚えていないが、目を覚ませば般若の如く憤怒をあらわに傍らに立つタニーナの姿があったから、それはもう心臓に悪かった。そして現在、わたしはそのままベッドの上で正座をさせられ、かれこれ小一時間は優に超える時間をタニーナの説教に費やしていた。正直、もう寝かせてくれというのが本音だが、タニーナにわたしの身勝手な行動がどれだけ人様に迷惑をかけたか懇切丁寧に説明されたため、大人しく項垂れているしかなかった。

更新日:2018-05-27 19:06:31

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パンドラボックス~幼少期編~