• 5 / 82 ページ

第一章:バンパイアとの出会い ~それぞれの朝~

【視点:リン・ダン】



 朝の爽快でひんやりとした心地よい風が火照ったわたしの頬を掠めていく。

 木々の枝葉の合間から差し込む柔らかな陽光を頼りに、わたしは軽やかな足取りで鬱蒼と木々の生い茂る薄暗い森の中を駆け抜けていった。

 わたしの名前はリン・ダン(仮)。

 なぜ(仮)がついてるかって?

 そりゃ何か知らんけどわたしがダン家の養子だからさ。

 このリンって名前もおばさんが考えたやつ。本名じゃない。

 まっ、名前だの養子だの云々はわたしにとってはどうでもいいことだからその辺にほっぽりだすとして、そうこうしている内にわたしはようやく森を抜けてすぐの所にある家についた。

 自分の身長ほどもある高い柵をまるで地球から重量がなくなってしまったかのように軽々と飛び越え、寝静まった家の中庭に忍び込むと、わたしは慣れた動きでそこら辺に転がっている木箱や外からキッチンが覗ける窓の縁などを使って屋根へとよじ登り、自室の窓から部屋の中へと滑り込んだ。

 おばさんたちが来た気配なし、と。よし、大丈夫。今日も抜けだしたこと、バレてないな。

 部屋の中を見回してそのことを確認し、一安心すると、汗ばんだ薄汚れたTシャツをその場に脱ぎ捨てて、箪笥の中から適当に選んで引っ張り出してきた青と白のボーダー柄の襟首付きのTシャツに着替えたわたしは、短パンのポケットの中から今日の収穫物を取り出した。

 机の上に置かれたそれは、それぞれ青、赤、黄緑と言った様々な異色な色彩を放っていることを除けば何の変哲もないただの灰色の小さな小石だった。だが、これこそがわざわざ早朝からわたしが家をこっそりと抜け出して、いつもいつも大人たちから「一人で入ってはいけない」と口を酸っぱくして注意されている森の中を一人で駆け回っている理由だと言っても過言じゃない。

 わたしは今日の獲物(小石)を一つ手に取ると、目の前に翳して満足げに口元を微かに綻ばせてそれを眺めた。

 確かに「朝早くから」というのは眠いし季節によっては森の中は真っ暗で薄気味悪いし、といった問題点が多々あるが、そんなことが全く気にならなくなるくらい森の中は面白いものでいっぱいに溢れている。見たことも無い植物や木の上によじ登って、上から動物たちがあれやこれをしているのを見て回ったり、自分が行きたいと思った所にも行けたりするという自由がそこにある。

 わたしの行動をいちいち口煩く咎めたり大人たちに告げ口したりするやつらがいないから、そこら辺に自生している果物や木の実を取って綺麗な小川の水で洗って食べたり、動物たちにちょっとしたいたずらを仕掛けたりなどなどなど、やりたい放題だ。で、そのついでに光る小石を見つけたら拾って帰る。

 それにしても、一つ不思議なことがある。

 それはこの小石の光がわたしの目にしか映らないということだ。

 わたしが小石を拾って持ち帰っているのは、単に「珍しいから」というだけで別にこれと言った特別な理由はないのだが、この小石の神秘的なオーラを目視することが出来ない他の人間にはわたしの行動は理解し難いものらしく、わたしの獲物たち(小石たち)を目にする度に、おばさんたちは決まって奇妙かつ迷惑そうに眉を顰めるのだ。

更新日:2018-05-27 18:49:06

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

パンドラボックス~幼少期編~