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【視点:カリナ・エバンネ】



 思わず口から出そうになった台詞をいつもの癖でぐっと飲みこむ。

「あー、ありそー。あいつ、普段何考えてるのかわかんないもんな」
「体力お化けのくせにあんなに疲れてんのは相当苦戦したみたいだな」
「それでも、あいつなら寝ながらでもボールくらいなら普通に避けそうだと思ってたけど、リンも一応は人間だったんだな」

 どんな運動神経よ!

 ツッコみたい!でもこの人たちまだどんな人かよくわかんないし……でもダンさんのこといっぱい知ってそうだし。それに友達もやっぱり欲しいし……。

「まー、しょせんは噂だったってことだな」
「噂?」

 よし、やっと声が出た。他は後でまた聞こう。茶髪少年とは席も近いしね。

「あ、カリナは知らねーか。あいつの噂」
「うん。どんな話なの?」
「うーん、色々あるよな」
「な。怒ると目が赤くなるとか、実はバンパイアの子供だとか、色々あるよな」
「な、何それ……」

 物騒にもほどがある。というか、バンパイアって……。

 カリナの背筋に、冷や汗が伝い、さっと頬から血の気が引いていったのが分かった。だけど、互いの会話に夢中になっている彼らは気が付かない。

「あ、あと、実は異能者で、親に怖がられて捨てられたとかいうのもあるよな。実際、養子って話も事実みてぇだしな」
「あ、俺も聞いた。この前、ローズがラナちゃんに話してるとこ聞いたよ」
「えぇ!?そうなの?」

 ローズって誰?という疑問はさておき、思わぬ事実に頓狂な声が喉から飛び出た。

「うん。だから、今朝からいきなり思いっきりでかい声であいさつしたり、話しかけたりしてるカリナのこと、勇気あるよなーって思ってた」
「俺も、リンがあんなにまともに話してるとこ、初めて見た。お前スゲーな」

と二人して冗談のようにして笑っている。というかダンさん、普段どんだけ孤立してんの……。

「えぇ!?で、でも、それって全部噂だよね……?」
「うん。養子の話以外は」
「まっ、どれもリンならあり得そうな話だけどな」

(ちょっ……それは、ダンさんに失礼じゃない?)

 むっとして言い返そうと思ったけど、悲しいことに、私の臆病な口からは結局何も出てこなかった。

 この役立たず!

(でも、確かに、リンちゃんが誰かと話してるとこ、見たことないな)

 まだカリナが学校に来てから一日しか経ってないから、偶然かと思ってた。

(……寂しく、ないのかな……)

 カリナは、独りぼっちは嫌だ。兄弟もいないし、パパもいない。故郷を離れた今は、親戚も友達もいない。だから、本当は心臓がバクバクして苦しいし、怖いけど、無理やりにでも笑っているように頑張っているつもりだ。今は心の底から笑えなくても、いつか、そうなれるような友達が欲しいから。

 いつの間にか黙りこくったカリナを気に留めることもなく、楽しげに会話を弾ませる二人の話は、いつしか隣町のあのバンパイア騒動に移っていた。何でも、バンパイアと戦って怪我をした兵士さんたちがこの町の病院で怪我を治しているらしい。
 その時になってようやく、デーン先生が戻ってきた。もちろん、そのそばにダンさんの姿は見えない。

「はーい、皆さん、リンさんは軽い脳震盪のため一時気を失っていますが、すぐに回復するだろうとのことなので、授業を再開しますよ」

 よかった……大怪我とかじゃないんだね。ていうか、脳震盪って何?先生、六歳児にも分かるように説明をお願いします。

更新日:2018-05-27 19:04:01

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