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【視点:リン・ダン】



 その視線の先を辿っていくと、そこにはわたしの素肌が露わになった肩にくっきりと浮かび上がる、黒と紫と緑を混ぜ合わせたような、気持ちの悪い色をしたまだら模様があった。今朝、小石の爆発による爆風に吹き飛ばされた時に出来たものだ。

 うわ、あらためて見てみると、やっぱ結構痛々しいな。ってか、今朝よりも色、濃くなってないか?

「あー、打った」
「何で?」
「…………」

 さて、どう説明したものか……。本当のこと話したら絶対こいつ、先生に言うよな……。

 ありのまま「バンパイアに襲われた」と言えばただ事では済まされないことは分かっている。神郷町の一件以来、大人たちは結構そういうものに対してカリカリしてるからな。タニーナですら、普段は私が何をしようともあまり口を挟まないくせに、つい最近「あまり森に近づくな」って忠告してきたくらいだし。まぁ、その忠告無視して近づくどころか森に入った結果、今朝方の事件が起こったわけだが。

 はははは……あー、笑えねー。今度からはもう少し素直に言うこと聞くことにしよう。

「ベッドから落ちた」
「そ、そうなんだ……」
「うん」

 まぁ、これが一番無難だな。ぶっちゃけ、ベッドから落ちただけでこんな人の手形みたいな痣が出来るのかどうか疑問甚だしいが、エバンネは今朝の事件を知らないから何とかこれでごまかせるだろう。いや、誤魔化されてくれ、頼むから。
 だがわたしの懇願は、結局は杞憂に終わった。

「痛くない?大丈夫?」

 本気で心配そうな澄んだスカイブルーの瞳が上目遣いで少しでも偽りがないか見定めてやろうとばかりにわたしの顔を覗き込んでくる。そんなエバンネにしどろもどろになりながらも私は首肯した。

「あー…、まぁ、痛い…けど、そこまで」
「そっか。保健室に行って手当てしてもらわなくてもいいの?」
「んー……いい」

 何だろう。こいつと話すの、めちゃくちゃ面倒。なんというか、すごく歯痒い感じ。
 数日前、図書館で出くわした時もこんな感じだった。
 会話なんて、いつもならもっと適当にあしらってすぐ終わらせるのに、どうしてかエバンネと話すとどうもそうはいかなくなる。
 何がそうさせるのか、どうしてそうなってしまうのか全く分からない。それが余計に私を苛つかせる。
 そもそも、わたしは人と関わることがそれほど好きじゃない。寧ろ面倒くさいとすら思っている。
 というのも、わたしが今よりもずっと小さい頃から、その言葉の意味も理解できないことも関係なく、わたしがダン家の養子、曰く捨て子であることをしつこく教え込まれてきた。わたしがタニーナのことを「おばさん」と言わずに、誤って「お母さん」と呼んでしまった時など、即座に「あたしはお前の本当の母親じゃない」と否定されたことがあるくらいの入念さだ。加えて、いつからできたのか、どうして生まれたのかは知らないけれど、物心ついたころからわたしには妙な噂が付いて回った。内容は千姿万態といったところで、一つできればたちどころに火が付いたように様々に形を変えながら広がっていく。

「あいつは実はバンパイアらしい。今は何らかの能力を使って人間に化けているんだとか。それで、夜な夜な街をうろついては人の血を貪っているそうだとか」
「親に捨てられたのは奇妙な力を持っているせいだって話だ。薄気味悪いって話で捨てられたそうだ」

 などなど。この程度の話はまだかわいいもんで、もっとひどいのは親がいないのはわたしが喰い殺したからだとか、いずれはわたしが終焉の日(ターミネーションズ・デイ)の二の舞を引き起こすだとか、根も葉もないことをまことしやかに囁かれている。そのせいでローズには馬鹿にされるし、それに追い風を吹かすが如く、メトリオはローズばっか可愛がる分、わたしを鬱陶しがる。わたしが生まれた日付が分からないとかどうとかで私の誕生日は無視するくせに、ローズの誕生日にはちゃっかり本人がねだるものを買って与えているのがいい例だろう。まぁ、あのおっさんに今更デレデレされてもキモイの一言しか出てこないけどな。

更新日:2018-05-27 19:03:24

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