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~事件だ!~

【視点:リン・ダン】



 眠い。ひたすらに、眠い。

 気を抜けば今にも視界をシャットアウトしそうになる瞼をこすりつけ、わたしは本日何度目になるか、既に数える気すら失せた大きなあくびを吐いた。
 霞みがかったように思考が鈍っており、前でチョークと教科書を手に話しているデーン先生の声も遠くから叫んでいるみたいに朧気にしか伝わってこない。

 あぁ、眠い。今すぐ机に突っ伏してそのまんま眠ってしまいたい。

 体育の時間まであと数分。もう少しの辛抱なのだが、これがかなりきつい。時間の神様に呪われでもしたのか、一分が一時間に引き伸ばされたかのように感じる。

 というか、何でこんなに眠いんだ?確かに、今朝はちょっとしたいざこざがあったけど、気疲れはしても疲れるほどの騒動ではないだろう。それに毎日森の中を駆け回っているから体力には自信がある。なのにどうしてここまで体がだるい?あのバンパイア、わたしに何かしたのか?

 どうにも授業に集中できず、ぼんやりとする頭で今朝のことを思い出すが、考えれば考えるほど訳が分からないことだらけで、疑問ばかりが積み重なっていく。

 あぁ、頭痛くなってきた……。

 そもそもあのバンパイアはどこから?先日騒動があった神郷町から流れてきたのか?だけど、神郷町にいた奴らが一匹残らず殺したって聞いたぞ?それにあの小石のことも気になる。どうしてあの時いきなり爆発なんかしたんだ?いや、砕け散っただけだから爆発とは言わない?いやいやいや、そんなことよりも家にあるやつがあんな感じに一気に爆ぜたらどうなる?家ごと吹っ飛ぶんじゃないのか?
 そこまでに思い至ると同時に、顔面から血の気がサーっと引いていく。眠気なんてまとめて空の彼方にポイッだ。

 やっべぇ。どうやったら爆発すんのかは知らないけど、もしわたしが今日帰るまでに今朝みたいなことになってたらわたしにフラグが立っちまう!「死亡フラグ」ってやつが!!
 メトリオにボコられた挙句、家を追い出されるくらいならまだしも、タニーナにバレたら確実に殺される!!
 ……うん。帰ったら捨てよう。即捨てよう。というか今すぐ帰らせてくれ。今この瞬間にも家がドッカ―ンって言ってたらと思うと気が気じゃねぇ。わたしの親指の第一関節くらいの大きさで大の男、しかも弱っているとはいえバンパイアを吹き飛ばすほどの威力を持つものが何十個と一気に大爆発を起こせばどんな事態になるか想像もつかない。

 一つだけ、運が良いことと言えば、例のバンパイア騒動で派遣されてたWCDの兵士たちがこの三田市の病院に多数入院しているらしく、その病院の院長を務めているタニーナはここ一週間くらい仕事に追われ、ほとんど家に帰ってきていないということだ。だからもし家が吹っ飛んでももしかしたらわたしが姿をくらますまでの時間くらいはあるかもしれない。まっ、タニーナがいないおかげで家事をする人間がいないから家の中は半ごみ屋敷状態であるのは余談だ。メトリオとローズが家事なんてするわけないし、わたしはそもそも食う、風呂、寝るとき以外ではほとんど家にいないし。

 その時になってようやく授業終了と休み時間の始まりを告げるチャイムが鳴り響き、わたしは思考の渦から一時的に解放された。
 次の授業である体育に向け、着替えを始めようとみんな一斉にわらわらと席を立ちあがる。わたしもそれに倣って、重い腰を上げ、のろのろと着替え始めた。あ、体がだるいのを理由にして家に帰るってのも一つの手かもしれないな。いや、でも大好きな体育を逃す気には流石になれない…でもだからと言ってタニーナにぶっ殺されるのも…。くぅ~、どうしよう。

 わたしが一人、悶々と悩んでいると、突如、隣でスカートのホックを外していたエバンネが、悲鳴のような驚愕の声を張り上た。

「!ダ、ダンさん、そのあざどうしたの!?」
「ん?」

更新日:2018-05-27 19:03:11

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パンドラボックス~幼少期編~