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~転校生~

【視点:リン・ダン】



 六月下旬にもなると、朝の涼しい時間帯であってもそれなりに体を動かえば自然と多少は汗をかく。

 今日は特に朝から太陽がわたしを溶かそうとでもしているみたいにギラギラと照っており、十数分歩いただけでわたしは既にうっすらと額に汗を滲ませていた。

 おかげでわたしとローズ、またはこの三田(さんだ)市に住む子供たちの大半が通うバートン小学校の校舎内に入り、漸く鬱陶しい日差しから逃れられたときにはホゥと思わず息を吐いた。

 教室は既にわたしより先に登校していた生徒たちの話し声で賑わっており、時折「転校生」やら「バンパイア」やら気になる単語(ワード)が耳を掠める。かと言って大して仲良くもない同級生(クラスメイト)たちと会話に興じる気にもならなかったから、わたしは机の上にランドセルを置いて中身を机の中にしまいながら聞き耳を立てるに済ましておいた。

「ねぇ、聞いた?この前言ってた転校生、今日来るらしいよ」
「あー、それ知ってるーわたしたちのクラスに来るのよね?」
「えっ、そうなの!?初耳―!」
「珍しいよねー、こんな田舎に転校生がくるなんて」
「お母さんが言っていたけど、最近、アメリカからシングルマザーの一家が引っ越してきたって。そこの子かな?ラナちゃんの家の近くらしいよ」
「ほんと!?じゃあ結構お金持ちなんだね。いーなー」

 ふーん。アメリカから、ねぇ。随分と遠くから来たもんだな。

 わたしはわたしの座席のすぐ近くで三人一塊(さんにんひとかたまり)になってきゃいきゃいとガールズトークを展開している彼女たちの会話を右から左へと聞き流しながら背後のロッカーに自分のランドセルを突っ込んだ。

 まだ朝のHRにまで時間があったから暇つぶしに持参していた読書本を取り出し、栞を挟んだページを開いて読み始めた。すると、今度は一つ席を挟んだ向かい側に数人数で群がっている男子たちの話し声が聞こえて来た。

「なぁ、昨日のテレビ見たか?隣町でバンパイアが出たんだってよ。しかも一匹とかそういうレベルじゃなくて集団で出たんだってさ」
「あっ、僕も聞いた!お父さんとお母さんが『もしかしたらWCDが動くかもしれない』って言ってた」
「WCD?何だそれ?」
「えっ、お前知らねぇの?ブラックリストに載ってる犯罪者とかバンパイアとかと戦う組織だよ」
「それ警察とか軍隊とかの仕事じゃないの?」
「違うよ。まぁ、似たようなもんだし、しょっちゅう一緒に動いてるらしいけどな。親父曰く、警察と軍隊は国家のものだけど、WCDは完全にWCDの総帥の命令にだけ従う独立した組織なんだって。だからWCDの決定には国もなかなか逆らえないんだと。強さとかも軍隊とは格が違うってさ。なんでも、異能者とかわんさかいるらしいぜ?」
「へぇ……。すっげ―!何かカッコいいな、それ!」
「だろ?俺もいつか、WCDに入ってやるんだー!」

 いや、無理だろ。

 わたしは内心で密かに己の将来の勇姿に胸を躍らせている坊主頭の少年に対してツッコミを入れた。

 名前は確か、ツヨシ ナガハラとか言ったっけ?あ、珍しく覚えてたわ。まぁ、身体能力ではこの一年二組でもトップクラスだからな。体育でしょっちゅう張り合ってるし、そりゃ覚えるか。でも精神面(メンタル)弱いんだよなぁ、こいつ。すぐにビビるし。どうせWCDに入ったところで訓練段階で怖気づいて尻尾巻いて逃げるに決まってる。わたしらの何十倍もデカいドラゴンの捕獲とか、一日で死体の山作りまくった殺し屋とか相手にしてるようなとこだ。心臓が持たねぇよ。

更新日:2018-05-27 18:51:15

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