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序章 乗り移り

 目が覚めたら美少女に乗り移っていた。

 湯気立ち込める浴室。
 一糸纏わないあられもない少女の身体が鏡に映る。

 なかなかにショッキングな出来事だ。この世で最も愛している人の裸が突如として視界に入ってきたら、誰だって驚くだろう。
 まだまだ成長途中の胸に、すらりと綺麗な脚。普段纏めてある少し長めの髪は、洗うために下ろしている。高校一年生の彼女は、贔屓めに見ても美少女だった。

 それでも俺は叫ばずにはいられなかった。

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?』

「!?」

 びくっ! と鏡の中の彼女が驚き、近くにあったタオルで自分の身体を隠した。

「だ……誰っ? なに……?」

 恐る恐ると声を漏らす。辺りを見回すが、もちろんこの浴室には彼女一人しかいない。

『何だこれ……声が聞こえるのか?』

「っ! 誰なの……どこにいるの?」

 少女の反応があった。意識してみると、声が彼女に届くらしい。

『どこにいるというか……』

 俺だって状況を把握できない。
 目が覚めたらいきなり鏡に映る自分の身体が最も愛している人になっていて、話すのも歩くのも彼女の意思で動かされていた。

 だから俺はひとまず、彼女の身体に乗り移ったものだと仮定した。
 取り憑いたといってもいいかもしれない。
 やはり天国か……いやまて落ち着け。

「まって……その声」

 そしてその美少女も気づき出した。

「もしかして……お兄ちゃん?」


 ――まあ美少女というか俺の妹なんだが。

更新日:2017-06-23 12:59:05

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