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第伍話

 話は少し遡って2月。
 私はあの後、余計なことを考えずに毎晩夜な夜な悪しきものを滅しに行った。何も考えずただ無感情に。
八ッ崎くんに初めて会う前の自分のように。
機械のように、感情をただただ無理矢理奥に詰め込んで消し去っていた。
そのようなものだろう。
そして日中は普段どおり学校に行って、行ったけど眠れなかった。
彼のことを考えたら寝ようなんてとてもじゃないけど思えなかった。
不眠。寝ずにこんな生活を10日間ほど続けた。
11日目。
その晩、私は敵を追って裏路地に入って、悪魔たちの罠に引っかかった。(ちなみに一般人には悪魔は普通見えない。)
『よぉ、お譲ちゃん優しくするぜ?』
『俺ちゃそんな簡単には殺られねーぞ。』
『一瞬で殺しはしないさ。じわじわと嬲って殺してやる。』
下卑た表情を顔に浮かべて悪魔たちは笑う。
陰陽師への報復がそんなに嬉しいか。
その裏路地は人通りが少なく、普段から暗く湿気が強いところだ。
このコンディションが最悪だった。
こういう奴等はこういうところで力が強化されるのだ。
(嵌められた。)
普段の私だったらこんなことにはなっていない。
冷静になりきれていなかった自分をこのときはだいぶ悔やんだ。
最悪。
悪魔たちは私の見る限り10~じゃ効かない。
50体以上いるだろう。
私は後ろを数体の巨大悪魔に捕まれ身動きができない体勢にされた。
そして、言われたとおりジワジワと嬲られた。
殴られ蹴られ、体中あちこちが傷を負い、打撲し、青く腫れ、赤く滲み、骨折し、血がたくさん溢れ出た。
口も押さえられ、悲鳴はあげられない。
私は痛みに涙をつい出してしまった。
『お、陰陽師が泣いてるぜ?』
『ハハッ、ウケるわww超面白ぇwwwww』
『じゃあ、このまま殺すか。』
私はそのまま両手両足を大の字に広げられ押えられた。
頭も押えられた。
そして小さいのも大きい悪魔も合わせてほとんどがその手に凶器、それぞれの武器を手に持っている。
私は歯を食いしばった。
(あ…、私ここで死ぬんだ……。)
己の最期を、死期を悟った。
ボロボロになった体で、こんな惨めなところで死ぬんだって。
出生もそんなものだし、お似合いかな。
呪えるなら全てを呪いたかった。
幸せになれるなら、幸せになりたかった。
『さぁ、陰陽師を殺せーっ!』
『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおぉっっっ!!!!』』』』
悪魔たちは吠えた。歓喜に奮え吠えた。
陰陽師を殺せることなんて滅多に無いことだからだろう。
「と、でも思ったのか悪魔(バカ)たれ。」
その時、男性の低い声がこの薄汚い裏路地に響く。
『あ?』
悪魔たちがその声に反応した瞬間、何かが起こる。
「地の精:ノームよ今此処に退魔の力を。
『髪盗人』、『開』!!!」
その呪文か何かを唱えたその瞬時に裏路地の地が、突然何の前触れも無く穴が開く。
『『『『ああああああああああああああ!!!?』』』』
悪魔たちはその穴に落ちていった。一匹残らず。
「『閉』」
そしてその穴は閉じた。
「この穴は精霊たちの力で開けさせてもらった底なしの穴だぜ。ぉえっ、底無しっつっても地球の核まで落とされるもんだし肉体は焼かれてお仕舞いなんだよぉえええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!?」
その男はかっこつけようとしたのかそれが裏目に出たのか私の目の前で盛大に吐いた。
私は今、5体不満足なのでちょっとだけその胃液たちが足にかかった。
気持ち悪い。酒臭い。
けれど、私は助かったのかな。
また、彼の帰りを待ち望んでいられるのだろうか。

更新日:2017-10-20 17:04:41

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