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小説

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Ⅶ 楽器 ~ ブラームス ドッペル・コンツェルト

挿絵 564*317

【Hotel Adlon, Berlin, Photo: Hotel Adlon】



運転手は、今度は道を間違えなかった。
伯林の市街に無事入った。

「大使館に向かいますか。」と、運転手が聞く。
「いや、ウンター・デン・リンデン1番地のホテル・アドロンだ。」

ダーヴィトに会いたかった。

分厚い絨毯が敷きつめられたホテルのフロントで、ダーヴィトの泊まっている部屋の電話を呼び出してもらった。
電話の間も、ユリウスの手はもちろん握って離さない。

呼び出し音が何度か鳴り、受話器を取る音がする。
「もしもし」
懐かしいバスの声、あいつのいい声だ。

「クラウス・ゾンマーシュミットだ。」
「…!」
受話器の向こうで、奴の息をのむ様子が手に取るようにわかる。

「…ク、クラウスか!? お、おい、本当にクラウスか!?」
「ああ、そうだ、クラウスだ。」

「お、おまえ、今、どこにいるんだ。」
「おまえのいるホテルの1階さ。」
「すぐ上がって来いよ。」
そう言って、ダーヴィトは部屋番号を伝えた。

エレヴェーターはなかなか来なかったので、待ちきれなくなったおれは、ユリウスの手を引いて豪華なシャンデリアの下がる大階段を駆け上がった。
廊下のつきあたり、スイートの部屋の美しい彫刻が施された大きな扉の前で、ダーヴィトが腕を広げて待っていた。

「ダーヴィト!」
「クラウス!」

おれは廊下を走って行って、ダーヴィトと抱き合った。
固い握手をしながら奴の顔を見ると、少年時代と同じあいつの笑顔、ちっとも変わっていなかった。

「まあ、ユリウス!」
女の声がした。

黒髪の女が部屋から出てきて、おれのかたわらにいたユリウスを抱きしめた。
「ユリウス、本当に心配したのよ。ダーヴィトと一緒にこの伯林に探しに来たのよ。」
女は、ユリウスの姉上だった。泣いていた。


更新日:2017-08-27 22:10:34

もうひとつの伯林(ベルリン)オルフェウスの窓ss Op.6