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XⅥ 青年(下)~マーラー「アダージェット」

挿絵 700*700

【春のウィーン、Photo: Wien Tourismus/Christian Stemper 】



ウィーンのダーヴィトに手紙を書いた。

ダーヴィトは、ウィーンの古い家柄である母方の旧子爵家を継いでいた。
戦前、先代の当主だった彼の叔父上は、芸術家たちのパトロンとして毎週木曜日の集まりを主催するなど、ベル・エポック期のウィーンの芸術、文化に一定の貢献をなしてきた。
その縁もあって、跡目を継いだダーヴィトも、音楽を中心にいわゆる文化人の知己が多かった。

イザークも、ウィーンでデビューする前、ダーヴィトに教えてもらうことも多かったと言っていた。
イザークよりも少し前にデビューしたヴィルヘルム・バックハウスの日程と居場所を突き止めるのに、ダーヴィトに頼んだこともあるらしい。
「僕は、興信所じゃないんだけどね。」と、ダーヴィトは笑いながらも、どこからか聞いてきて教えてくれたという。

ダーヴィトへの手紙は、以下について調べて教えてほしいという内容だ。
問1 ウィーン音楽院に、「フォン・エーゲノルフ」というヴァイオリン専攻の学生が在籍しているか。
問2 ウィーン国立歌劇場管弦楽団の入団予定者に、「フォン・エーゲノルフ」という姓の者はいるか。
問3 次のウィーン市内の住所に、「フォン・エーゲノルフ」という者は住んでいるか。
住所は、あの青年の査証申請書に記してあったものだ。




更新日:2019-05-18 15:25:03

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