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Ⅺ もうひとつのふるさと(上)~ベートーヴェン「ロマンス」
伯林の秋が深まっていく。
大使館に着任したばかりの外交官は忙しい。
山積する案件について、部下から受け取った大量の資料を読みこみ、対処方針について議論しなければならない。時には、モスクワと公電をやり取りして、その指示を仰ぐ必要もある。これまでやったことのない仕事だから、基本となる条約や法律など勉強すべきことも多い。
飛ぶように日々が過ぎていく。
ある日、ウィーンのダーヴィトから手紙を受け取った。
奴は、マリア・バルバラと一緒になり、ウィーンとレーゲンスブルクの屋敷を行ったり来たりしながら暮らしているらしい。
ダーヴィトが教鞭をとるウィーン大学は、当時、哲学の分野で有名だった。
奴は、その中心的な学者のひとりとして活躍していたから、かなり忙しく過ごしているようだったが、おれにレーゲンスブルクにぜひ遊びに来いと言う。その時には、自分も大学の講義を休講にして行くから、早く知らせろという手紙だった。
懐かしいレーゲンスブルク、あの音楽学校。
仕事にひと区切りつけ、思い切って木曜の午後から休暇をもらい、レーゲンスブルクで週末を過ごすことにした。
更新日:2019-02-10 23:16:08