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Ⅲ 大地 ~ ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番
【Kremlin, Photo: Wilson Center】
モスクワでも、おれは、相変わらず忙しかった。
そして、相変わらずユリウスを探し続けていた。
まとまった休みのたびにサンクト・ペテルブルクに行き、四方八方探し回った。
ドイツ大使館にも行った。ユリウスは、ドイツ国籍だから、革命の混乱のなかで、本人が大使館に助けを求めた可能性がある。領事部の窓口の女性事務官は、おれの必死の様子に同情して、大使館で保護した者のリストをつぶさに見てくれた。でも、ユリウスらしき名前はなかった。
ユリウスは有効な旅券を持っていないから、国外に出たとも考えにくい。再会したとき、ドイツ帝国の旅券を持っていたが、有効期限はとうに切れている。ユスーポフ候が持たせた偽造旅券だから、更新も不可能だろう。
ユリウスの行方はわからなかった。
そうして4年の日々が過ぎた。
客観的に考えれば、もうあきらめるべき時なのかもしれない。
あの混乱のさなか、ユリウスは死んでしまった。子どもと一緒に。
これだけ探したのに見つからないということは、そういうことなのだと頭ではわかる。
でも、あきらめきれない。あいつは、きっとどこかで生きている。生きておれの迎えを待っている。
共同墓地に他の遺体とともに埋められる陰鬱な光景が、頭に浮かんでは消える。
あの窓の伝説の悲しい結末が、ちらりと脳裡をかすめる。
ゲオルク・スターラーは、あいつに持たせておけばよかった。
重たい心をひきずりながら、おれはモスクワで目の前の仕事に追われた。
モスクワでも、おれは、相変わらず忙しかった。
そして、相変わらずユリウスを探し続けていた。
まとまった休みのたびにサンクト・ペテルブルクに行き、四方八方探し回った。
ドイツ大使館にも行った。ユリウスは、ドイツ国籍だから、革命の混乱のなかで、本人が大使館に助けを求めた可能性がある。領事部の窓口の女性事務官は、おれの必死の様子に同情して、大使館で保護した者のリストをつぶさに見てくれた。でも、ユリウスらしき名前はなかった。
ユリウスは有効な旅券を持っていないから、国外に出たとも考えにくい。再会したとき、ドイツ帝国の旅券を持っていたが、有効期限はとうに切れている。ユスーポフ候が持たせた偽造旅券だから、更新も不可能だろう。
ユリウスの行方はわからなかった。
そうして4年の日々が過ぎた。
客観的に考えれば、もうあきらめるべき時なのかもしれない。
あの混乱のさなか、ユリウスは死んでしまった。子どもと一緒に。
これだけ探したのに見つからないということは、そういうことなのだと頭ではわかる。
でも、あきらめきれない。あいつは、きっとどこかで生きている。生きておれの迎えを待っている。
共同墓地に他の遺体とともに埋められる陰鬱な光景が、頭に浮かんでは消える。
あの窓の伝説の悲しい結末が、ちらりと脳裡をかすめる。
ゲオルク・スターラーは、あいつに持たせておけばよかった。
重たい心をひきずりながら、おれはモスクワで目の前の仕事に追われた。
更新日:2017-06-29 23:47:05