• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 12 / 255 ページ

Ⅲ 大地 ~ ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番

挿絵 564*402

【Kremlin, Photo: Wilson Center】



モスクワでも、おれは、相変わらず忙しかった。
そして、相変わらずユリウスを探し続けていた。

まとまった休みのたびにサンクト・ペテルブルクに行き、四方八方探し回った。

ドイツ大使館にも行った。ユリウスは、ドイツ国籍だから、革命の混乱のなかで、本人が大使館に助けを求めた可能性がある。領事部の窓口の女性事務官は、おれの必死の様子に同情して、大使館で保護した者のリストをつぶさに見てくれた。でも、ユリウスらしき名前はなかった。

ユリウスは有効な旅券を持っていないから、国外に出たとも考えにくい。再会したとき、ドイツ帝国の旅券を持っていたが、有効期限はとうに切れている。ユスーポフ候が持たせた偽造旅券だから、更新も不可能だろう。

ユリウスの行方はわからなかった。

そうして4年の日々が過ぎた。

客観的に考えれば、もうあきらめるべき時なのかもしれない。
あの混乱のさなか、ユリウスは死んでしまった。子どもと一緒に。
これだけ探したのに見つからないということは、そういうことなのだと頭ではわかる。
でも、あきらめきれない。あいつは、きっとどこかで生きている。生きておれの迎えを待っている。

共同墓地に他の遺体とともに埋められる陰鬱な光景が、頭に浮かんでは消える。
あの窓の伝説の悲しい結末が、ちらりと脳裡をかすめる。

ゲオルク・スターラーは、あいつに持たせておけばよかった。

重たい心をひきずりながら、おれはモスクワで目の前の仕事に追われた。


更新日:2017-06-29 23:47:05

もうひとつの伯林(ベルリン)オルフェウスの窓ss Op.6