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Ⅸ ブラックタイ:もうひとつの人生 ~ 「フィデリオ」
カーテンのすき間から、まぶしい朝の光が漏れる。
ぼんやりした頭で考える。
ここはどこだ。
シベリアか。
いや、鉄格子から射す、あの冷たい光ではない。
…ああ、伯林だ。
おれは、伯林にいるんだ。
そして、ユリウスを見つけて…
からだを起こしてみると、横にユリウスが安らかに眠っている。
顔を見たくて、カーテンを少し開ける。
朝日のなかで、金色の髪が輝く。
天使のような姿。
白い肌、形の良い唇、長いまつげ。
ユリウスだ。
美しいおでこにそっとキスをする。
おれの天使がおれのもとに戻ってきた。
心から深いよろこびを感じる。
アッパーシーツにくるまった胸元から、白い乳房がちらりと見える。
そうっとシーツをはがしてみる。
乳白色のきめこまかい肌の裸体に、豊かにあふれる黄金色(こがねいろ)の髪。
朝日のなかで、全身が光り輝いている。
…きれいだ。
あまりの美しさに陶然とする。
6年前の夏、妊娠で少し色が濃くなっていた乳首は、今は、また薄桃色に戻っている。
その乳首にそっとキスをする。
もう片方にも。
それから、大切なところにも。
おれの天使。
おまえは、何も変わっていなかった。
おまえの匂いも、
耳をくすぐる甘いあえぎ声も、
柔らかなお尻を抱きかかえると、両手に吸いつくような滑らかな肌ざわりも、
頂点に達した表情も、
そして、おまえのからだの奥深くも、
何も変わってはいなかった。
おれは、おまえを探し求めていた。
おまえしかおれの女はいない。
ずっとそう思っていた。
そのとおりだった。
更新日:2018-09-01 18:02:46