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4月3日 花曇り

 春のブリタニアはどこも淡い桜色と濃い桃色に色づき染まります。
 そんな景色に人々は何となく、心躍らせ街をそぞろ歩き。
 浮かれ歌い、舞い踊る。
 春とは思いがけないことが起こるものです。
 時にはこんな騒動も―――。

「痛い痛い痛い!強くこすったらはげるもきゅ―!」
「おとなしくしてろ!げんこつ入れるぞ!」
「ギャー!」
 ベスパー銀行北側にある錬金術屋裏の運河そば。
 フェレットと男の言い争う声が絶え間なく聞こえました。
 いつもの白衣を脱いでシャツ姿のアッカーマンが地べたに座り込んで、桶の中で泡だらけになっているフェレットをごしごしと洗っています。
「くっそ、落ちねぇ・・・どうすんだこれ。評議会までにきれいになるのかよ。」
 男がぼやいている理由―それは、濃淡まだらなピンク色に染まったフェレットにありました。
「もうちょとしたら換毛の時期になるから、だいじょぶって言ってるのに―。」
「あぁ?それまでこんなまだらで過ごす気か?また街の人に俺が叱られるじゃねえか。」
「だってー、おっちゃんがー、染料溶かした桶を放置してたのが一番悪いもきゅ!」
「あーはいはい、俺が悪うございましたー。」
 男はやけ気味に棒読みでぼやきました。
 
 アッカーマンも錬金術師の端くれ、錬金術屋の仕事の一環で、特別な注文を受けて納品することがあります。
 その報酬に、近年ブリテインの錬金術師たちが新たに開発した何種類かの染料のうちの一つをもらったのでした。
 どういう性質のものか試しに染めるため、桶の水に染料を溶かして準備していたのですが、
いたずらが性分のフェレットがそれを見つけて染料の水に飛び込んだ、というのがこの騒動の真相でした。

 ケリーは背中の毛並みをもみ込むように洗われながらも、不満顔でぼやいています。
「ぅーぅー、きれいな色のおみずがあったら飛び込みたくなるものもきゅー。」
「あのな、あの染料いくらになるか知ってんのか??
 一本で300万ゴールドだぞ!しかも5回分しか染められないっつーのに、てめぇが染まっちまったから一回分無駄になっただろうが。
 ったく、まじもったいねえ。」

 ポピーホワイトの染料に染められた首長は、それを聞いてしょんぼりしました。
「むー、じゃあ一回分の染料代払うもきゅよ・・・きれいなのになー。」
 アッカーマンはふん、と鼻を鳴らします。
「いらねぇよ。また大量注文の依頼がはいりゃもらえるしな。
 ま、どうせ試し染めに使うもんだったんだ。
 たとえ染まったのが首長でも、試し染めには違いねぇ。気にすんな。」
「もきゅー・・・。」
 ケリーは再びごしごしと洗われ、マーブル柄から薄く目立たないほどに色が落ちたころ、ようやく解放されたのでした。

 今年の春のベスパーも、とても平和な一日でした。
 

更新日:2017-06-13 12:41:05

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